澤村大地

□プール掃除
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翌日。
授業を終え、いつもの荷物プラス、プールバッグを持って教室を出た。
いつもとは違う行き先に少しワクワクしながら友達に手を振った。


更衣室で着替えを済ませ扉を開けると、眩しく輝く太陽と、騒がしい2人が待ち構えていた。

田中・西谷「潔子さんの水着すが……あれ?」

潔子さんの冷ややかな視線を浴びようと2人の心が折れる事はなかった。

田中「ノヤっさん、もしかして服の下に水着を着て
   るんじゃ。」

西谷「なるほど!」

清水「………。」

澤村「田中、西谷、いい加減にしろ。」

菅原「掃除始めっぞー!」

注意する大地さんの方を見ると、バチっと目が合い、そして半裸に目がいってしまい、恥ずかしくて私は目を逸らした。

体育館で着替えているのを見た事はあったが、水着の状態にはまだ慣れず照れてしまった。


田中「うっわー。すげーなこりゃ。」

「わー……想像してたのとチガーウ。」

プールの中はコケだらけ。
おまけに泥や葉など、ゴミだらけだった。

武田「まずは壁のコケを落とすチームと、底のゴミを
   掃き出すチームに別れて作業して下さい。
   清水さんは僕と一緒に倉庫内の片付けを
   お願いします。」


コケの生えたプール内へそっと降りて行く皆に続き、私も滑らない様に注意した。
プールの淵に手をかけたまま一歩一歩とゆっくり歩いてみると意外と滑らないなと安心し、手を離して中心へと向かって歩き出した。

するとその途端、つるっと滑ってしまった。

「うわぁあーっ!!!」

菅原「うぉおっ!!!だ、大丈夫か??」

「は…はい。ありがとうございます。」

とっさに近くにいたスガさんが抱き止めるかのように助けてくれたおかげで、私は尻もちをつかずに済んだ。


が、しかし・・・。

澤村「日向ぁあ!!走るんじゃねぇ!
   危ないだろうがっ!!」

日向「ひっ!す、すみません。」

澤村「木下ぁ!もっと腰を入れて擦れ!
   そんなんじゃ終わらないぞ!!」

木下「は、はーい。」


東峰「な、なんか…大地 機嫌悪くない?」

「そ、そうですね。…怖いですね。」

澤村「旭ぃ!喋ってないで手ぇ動かせー!」

東峰「ひぃっ!(こっちにきた。)」

(これってもしや……ヤキモチ、だったり?)

「だ、大地さん?」

澤村「何だっ!!!!?」

ぐわっと振り向いた大地さんの迫力は凄まじく、
私は一歩下がってしまった。

「何か…怒ってます?」

澤村「怒ってなんかいない!!」

「そう…ですか。」


大地さんに「怒ってない」と怒られてからは、なかなか話しかけることもできず、黙々と作業を続けた。


澤村「よし、じゃあ一旦水で流すぞ!」

日向「やりたい!俺、やりまーす!」

目を輝かせた日向と西谷がホースを握った。

月島「水、出しますよー!」

月島が声を掛けて蛇口を捻った時には、日向は影山と何かモメていたようで…
水を得た魚のように、ホースは日向の手を離れて生き生きと暴れ回った。

縁下「冷たっ!」

「うわぁっ!」

山口「ビックリしたー!でも暑かったから気持ち
   良い…い゛っ!!!」

3人で水を被ってしまった私達。
山口はびしょ濡れになって透けた私の姿を見て赤くなり、すぐに目を逸らした。

山口「すすすすみません、俺見てないです。」

(見てなかったら赤面しないんじゃないかな)

…と思いつつ、山口の優しさを感じてそこは黙っておいた。

日向「すすすすすみませんっ!!」

「山口、日向、この下は水着だから大丈夫だよ!」

そう、私は大丈夫。しかし後ろを振り返る勇気は出なかった。

澤村「古一、ちょっと来い。」

「はい…………。」



1枚の壁を隔てた消毒液の池やシャワーを浴びる場所まで連れてこられた。

澤村「替えのTシャツはあるか?」

「いえ、無いです。」

そもそも濡れてもいいと思っていたのだ。

澤村「ちょっと待ってろ。」

そう言い残し、大地さんは扉の向こうへ消えた。



(タオルでも持ってきてくれるのかな?)

そう思い自分の体を見下ろしてみると、思った以上にびしょびしょで、大地さんのタオルを濡らしてしまうのを申し訳なく感じた。

(少ししぼれるかな?)

壁を1枚隔てている今は皆からは見えないので、
Tシャツを脱ぎ、上半身だけ水着姿になった。
チカラいっぱいTシャツを捻ったが、ぽたりぽたりと数滴落ちただけだった。

澤村「うわっ、お前っ!何で脱いでんだよっ!?」

「え、いや、これ…え、えぇー?!」

戻ってくるなり大地さんは顔を赤く染めて壁の向こう側へ行ってしまった。

澤村「これ、着とけ。」

大地さんは壁から腕を伸ばし、Tシャツとタオルを差し出してくれた。

澤村「デカイだろうけど、それよりはマシだろ?」

「あ、ありがとうございます。」

澤村「それ、絞ろうか?」

「お願いします。」

私はねじねじになったTシャツを渡した。

壁越しに『ぼたぼたぼたっ』と音が聞こえた。
ビックリした私は壁から顔だけを覗かせた。

澤村「どうした?」

「すごく…絞れましたね。」

澤村「え?あぁ。……服、着た?」

「まだです。」

早く着ろと言わんばかりに、大地さんは口をぎゅっと結んだ。

頭を引っ込めて、先程受け取ったTシャツを広げ見つめた。
大地さんの大きいTシャツ。
少しドキドキしながら頭や腕を通した。

着てみてもやはり想像通りぶかぶかだった。
けれどその ぶかぶか感が嬉しくて、私は先程の事を思い切って大地さんに話してみる事にした。

「あのぉ、大地さん?」

澤村「ん?」

「私考えてたんです。
 大地さんの機嫌が悪いのって、さっき私が滑って
 スガさんに助けてもらった時からだったかなって。
 もしかして、なんですけど………ヤキモチ、だっ
 たりします?」

澤村「違う。」

「そう…ですか。」

澤村「ただ………
   …俺がソラを助けたかっただけだ…。」

(ヤキモチじゃん)

「えへへっ。」

澤村「笑うなよ。…悪かったな、カッコ悪くて。」

「違いますよ!妬いてもらったのがちょっと嬉し
 かったんです。
 大地さん、普段大人っぽいから、ヤキモチなんて
 妬かないと思ってたから。」

澤村「大人っぽいって言ったって、ソラと一つしか
   変わらないんだぞ?」

「ふふっ。そうですよね!
 大地さん、服着ましたよ。」

「おう」と言って大地さんは壁のこちら側へ出てきた。

澤村「お、大きいな。」

「でも彼シャツは憧れだったので嬉しいです!」

澤村「かっ!?彼シャツか……ヤバイな。」

「はい、ヤバイです!」

澤村「いや、なんか俺の思ってる“ヤバイ”と違う
   気が……。」

大地さんは口元に手を当て、ごにょごにょと何かを言っていた。

「え??」

澤村「何でもない。」

ふいっと顔を背けた大地さんの耳元は赤くなっていた。



掃除を続ける皆のもとへ戻ると、大地さんはスガさんに肩を抱えられ連れて行かれた。


菅原「大地ー、仲直りのキスでもしてたのかー?」

澤村「してねーよ、こんな所で!
   ………あー、でもどうせ見えねぇんだから
   すりゃよかった…。」


遠くで何を話しているかは聞こえなかったけれど、大地さんはスガさんのパンチをお腹にくらい、じゃれていた。
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