澤村大地

□大作戦
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2018年11月
私達は懐かしい体育館で、懐かしいメンバーに会えるのを楽しみにしていた。



ブラック
 ジャッカル vs アドラーズ

    日向 vs 影山





「大地!“おにぎり宮”並ぼうっ!」

澤村「おう。…って、まだ買うの?」

「だってお世話になった商店街の皆さんが、無言の
 圧力かけながら見てくるんだもん。
 どうせ4人で食べたらすぐなくなるだろうし。」

彼が「確かに」と言って笑った。

「このおにぎり屋さん有名なんだよ。
 それに、店主さん見てよ!」

宮治「いらっしゃいませー……あっ!
   烏野のキャプテン君やんっ!」

澤村「宮兄弟っ!?」

「こんにちは。
 みそと、鮭と、梅と、塩こんぶ1つずつお願い
 します。」

宮治「あれ?何やったっけ?君も見た顔や。」

「烏野のマネージャーでした。宮さんと同じ学年
 の方の。」

宮治「あぁ!…ほい、まいどー!」

お礼を言っておにぎりを受け取った。



旭さん、スガさんと合流して、皆で体育館を見回した。
3人の後ろ姿を見つめていると、色々な思い出と気持ちが体の中からぶわっと一気に込み上げてきた。

澤村「おーいソラー、泣くのはまだ早いぞー。」

涙ぐむ私を3人の先輩が笑い、そしてスガさんは叫んだ。

菅原「んーっ、祭りじゃあーーっ」



彼はトイレへと向かい、先に一緒に席に着いていたスガさんが質問した。

菅原「なぁ、古一は大地と結婚しねーの?」

突然の直球に、思いっきりビックリした顔をしてしまった。

「………その質問に、大地は何て答えてました?」

菅原「エーット……ナンダッタカナー。」

「私はしたいと思ってます。でも女の人からプロ
 ポーズするのって、日本男児的にはどうなのか
 なって思って。プライド傷つけたり。」

スガさんと旭さんは「あぁ」と納得していた。

「大地には大地のタイミングがあるだろうし、それ
 を待ちます。別に籍を入れなくても一緒には
 いられるし。」

菅原「で、本音は?」

スガさんは悪い顔をして私の顔を覗き込んだ。

「……………早く結婚したいに決まってるじゃな
 いですかー!…待ちますけどねっ!」

菅原「あはは!素直でよろしい!」

旭「スガー、もうやめたれー。」



彼も戻ってきて試合開始を待っていると、スガさんが突然叫んだ。

菅原「田中このやろォォォォ!!」

田中と潔子さんの夫婦にも久し振りに顔を合わせた。
成田、木下、そして後輩達とも再会を喜んでいると、フッと照明が落ちた。
いよいよだ!

影山が出てくると、私もスガさんも涙ぐみ、彼は声援を送った。
日向が出てくると、田中の声援が響き渡り、私の涙腺は崩壊した。





試合は日向のいるブラックジャッカルが勝ち、嬉しさと、感動と、涙で感情も顔面もぐっちゃぐちゃだった。


荷物やゴミを纏めて、潔子さんと仁花ちゃんと合流しようと立ち上がると、彼に引き留められた。

澤村「スガ、後で合流する。先に行っててくれ。」

「?」


観客達は席から離れ、帰る者、お土産を買いに行く者、選手達に会いに行く者がほとんどで、椅子に座っている者はまばらだった。

澤村「ソラ、ちょっとこっち来て。」

彼に手を引かれ、コートが良く見える最前に立ち手すりを掴んだ。

「わぁ、1番前は結構近いね。
 こんな感じだったかなぁ。」

澤村「あ、あぁ。………あの…」

「あっ!日向だ!おーーい!!日向ぁー!」

大きく手を振ると、日向は満面の笑みで手を振り返しながらぴょんぴょん跳ねた。

すると日向から少し離れた場所から、彼を呼ぶ声が聞こえてきた。

黒尾「ぅおーい!サームラさーん!」

「あっ!黒尾さんだっ!スーツだ!」

澤村「黒尾?」

私は「おーい」と大きく手を振り、彼は身を乗り出した。
          ・・
黒尾「サームラさん、ソレ!こっちでやったら?」

黒尾さんは彼の後ろ辺りをさした指を、続いてコート上に向けた。

「何??」

彼の顔を見上げると、黒尾さんの言っている意味を理解している様で、ゴクリと唾を飲み込んだ。

黒尾さんを見下ろすと「どうする?」といった感じで彼の返答を待っていた。

彼はコクンと頷き、黒尾さんはニヤリと笑った。

澤村「行こう。」

「え?下に行くの?え…?何だったの??」





先程まで見下ろしていた場所へと降り立つと、コートの周りに選手達が。
そして選手達の周りにはファンが沢山集まっていた。

黒尾さんと、日向、影山、ついでに木兎さんにでも会いに行くのかと思っていた。
しかし…

黒尾「サームラさーん、マネちゃんも、久し振り!
   さぁどうぞどうぞ!」

澤村「クローさん、本当に大丈夫ですかね。」

黒尾「入るのは俺が手配したんで大丈夫ですケド。
   そっちはどうでしょうね?」

ケケケと聞こえてきそうな顔で黒尾さんはニヤニヤと笑っていた。

どうぞと通されたのはコートの中だった。
靴を脱いで彼と手を繋いでおずおずと進んだ。

辺りが静まり返り、選手達皆が私達を見ていた。
そして周りを囲むファン達も、何か始まるのかと静かに見守っていた。

コートの真ん中まで来ると、彼は私と向き合って立ち、両手を繋いだ。

澤村「ソラさん。
   これからもずっと一緒に生きていたいと
   思ってます。
   俺と、家族になってくれませんか?」

突然の彼の言葉に手が震え、視界が霞んだ。
彼はポケットから小さな箱を取り出し、片ひざを着き、箱を開けた。

澤村「俺と結婚して下さい。」

「よ、よろしくお願いしアーっス!!」

号泣してしまった私はうまく言葉を発せられなかったけれど、なるべく大きな声で応え頭を下げた。
そして彼に思いっきり抱きついた。

私の勢いに負けて倒れ込んだ彼が起き上がる前に、周りの選手達がうおーっと突っ込んで来た。

日向「大地さーん!古一先ぱーい!
   あー、もう古一先輩じゃなくなるのかっ!」

影山「おめでとうございます!」

木兎「スゲーー!!何このサプライズ!」

黒尾「俺が手配した。
   てか本当にサームラさんでいいのー?」

       ・
「サームラサンがいいんです!」


東峰「大地ぃー!!」

菅原「お前っ!言えよっ!バカヤロー!
   おめでとう!コノヤロー!」

田中「だいぢざぁぁぁあーん!古一ー!」

田中の隣で潔子さんが手を振り、潔子さんの隣で仁花ちゃんが泣きながら拍手してくれていた。

菅原「あ、クソー。動画撮っときゃよかったー。」

月島「撮りました。」

山口「さすがツッキー!」

木下「じゃあ縁下と西谷に送ってやろうぜ!」

木兎・黒尾「俺にも送って!」

月島「いいですけど、何に使うんです?」

黒尾「何に使おうか考えてる。」

黒尾さんがニヤリと笑った。

木兎「俺はプロポーズの参考にしようと思って」

日向「え、木兎さんも結婚するんですか?」

木兎「いや、予定も相手もない。」

黒尾「てか、サームラさん達の場合は多分出会いが
   バレー部だったからここでプロポーズした
   んでしょ?
   木兎もバレー関係者と結婚するなら
   有りだけど違うなら参考にならない
   デショ。」

木兎「そーかぁ。じゃあそん時は赤葦にでも考え
   てもらうかっ!」

黒尾「いい加減、赤葦くん離れしてあげなさい
   よ。」

皆はゲラゲラ笑っていたが、私は観客席に赤葦さんがいないか探してしまった。


烏養監督「うおぉぉぉおーー!!
     澤村ー!!おま、お前ぇぇえー!」

武田先生「ひっぐ…うっぐ……おめでどゔ。」

懐かしい顔ぶれに2人で顔を見合わせて驚き、揃ってペコリと頭を下げた。

その後は選手達からサインを頂いたり写真を撮ってもらったりの好待遇で、少しの間学生だったあの頃へ戻ったかのようにはしゃぎ笑った。





帰り道、すっかり暗くなった道を2人で歩いた。

「今日は沢山泣いて、沢山笑ったー!
 懐かしくて、感動的で、驚いて、幸せで、
 本当……凄い1日だった!」

興奮は冷めていたはずなのに、1日を思い返すとまた胸がドキドキと心拍数を上げようとしているかの様だった。

澤村「なぁ、もう1回……やり直してもいいか
   な?」

「え!?やり直すって…何を?」

澤村「プロポーズ。」

さっきまでの幸せな気持ちが、ひゅっと一瞬で落ちて消え去った。

「な、何で?…やだっ!私、だい…」

澤村「黒尾にコート上へ呼ばれた時、迷ったんだ。
   あんな大勢が見てる中で、見せ物みたいに
   プロポーズしたら、断りづらいんじゃない
   かって。
   でももしソラが俺と結婚したいって思って
   くれてるなら、あの方が嬉しいかなって。」

嬉しかった。ずっと待っていた言葉を、あんな素敵な場所で、大好きな人達に見守られて、言ってもらえたのだ。

澤村「だから…もう1度プロポーズするから、
   本当は断りたかったのに断れなかったんだ
   としたら、言ってくれ。」

深呼吸をして出そうとしている言葉を、私は無理矢理遮った。

「大地っ!!
 …澤村大地さん!私と結婚して下さい!!」

澤村「えっ!?なんっ……はぁ??」

「さっきのプロポーズ、凄く嬉しかったのに…
 なのになかった事にされちゃうなんて嫌だ!
 断るはずなんてないじゃない。
 ずっと待ってたんだもん!」

彼がふっと柔らかく笑った。

澤村「そっか。ありがとう。じゃあ……
   よろしくお願いします。」

私達はもう1度抱き合い幸せを噛みしめた。

「あ……。」

澤村「ん?」

「えっと、大した事じゃないんだけど…
 プロポーズしてもらった時、私の涙が床に落ちて
 ワイピングしなきゃって思ったのに、そのまま
 忘れて帰ってきちゃった。」

澤村「あはは。ちゃんとプロの方が清掃がして
   くれてるんじゃない?
   それよりソラのお家にご挨拶に行かなきゃ
   なー。」

「大地んちにもね。緊張するなー。」

澤村「俺の方が緊張する。
   あ、そう言えば田中が家でお祝いしようって
   言ってくれてたぞ!」

「やったぁ、潔子さんち!大地、唐揚げ作って!」

澤村「はいはい。」


高校時代のあの頃…何度もこの道を通った。
彼へ密かに想いを寄せていた時もあったし、彼が卒業してしまう不安や寂しい時もあった。

まだ、ゴールじゃない。新しい道へのスタート。
私達は手を繋いで歩き出した。





『プロポーズ大作戦』


END



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