ドラマ展開にしてみよう

□1話 出会い
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9月下旬の昼下がり、私はいつものようにカメラを首にさげながら歩いていた。平日のこの時間は、散歩中のお年寄りや休憩中の社会人しかいない。
急に強い風が吹き、ほこりが目に入って痛い。目をこすりながら顔を上げた時、私は彼女に出会った。風になびくきれいな黒髪に目を奪われた。

『綺麗、、、、』

無意識にその言葉が口をついて出た。そして、私はシャッターをきった。それもまた、無意識だった。
すると、その女性はこちらを向いて

「盗撮は立派な犯罪ですよ?」

と訝しげな顔で見つめられた。さっきは良く見えなかったが、とても綺麗な顔をしている。明らかに、怪しまれているし通報されるかもしれないと思い

『すみませんでした。』

「それはいいんですけど、撮った写真消してもらってもいいですか?」

てっきり責められるものだと思っていたから、ぽかんとしてしまった。よくよく考えれば、写真を消してほしいと思うのは普通だ。私が変なんだ。

「あの、今すぐに消してください。じゃなかったら、訴えますよ?」

『え、あ、、すみません。今消しますね。』

結構気が強いんだな。見た目どおりっちゃ見た目どおりだ。だけど、何かを恐れている感じがする。犯罪ですよ?と言われたときも、瞳の奥が揺れている気がした。
自慢ではないけど、人間観察が得意だからそういうものには敏感だ。

「次からは気をつけてください。捕まりますよ。」

そのまま、彼女は去っていった。やっぱりなにか引っかかる。

翌日

私は奈良にある少し頭のいい高校に通っている。今日は教育実習の先生が来るとかなんとか。私には関係ないから、正直どうでもいい。だけど、思春期で頭の中お花畑の高校生にはそれが楽しみなのだろう。クラスのあちこちから、美人な先生がいいよなとか、イケメンだったら頭ぽんぽんしてほしいなとか、くだらないことばかり言い合っている。何が楽しいのやら。
うるさいところが嫌いで、図書室に向かっていたら、先生に話しかけられた。

「お、太田!昨日はどうしたんだ?早退なんて珍しいな。今は大丈夫なのか?」

この、暑苦しくていかにも生徒想いのいい先生という雰囲気をまとっている腹黒策士が私の担任であり、一番苦手な宮澤先生。ひねくれものの私にも他の人と同じように接してくるところがあまり好きではない。
自分で言うのもなんだが私は優等生だ。だから、先生たちはあまり私のことを気にかけていない。それは、性格もあるけど静かで模範的な生徒には口出しをしない。でも、この先生は違う。それが、嫌いだ。

『はい。今はなんともないです』

「そかそか、それは良かった。
あ、先生な、今日のHRいけないから、太田が教育実習の先生を案内してくれ。1階の会議室にいるから、よろしくな!!
じゃ、俺行くわ」

『え?ちょっと先生!!』

完全に押し付けられた。きっと先生もめんどくさいのだろう。学級委員に頼めばいいものを図書委員に頼むのは、どうかと思う。
私が、先生の言うことを無視して教室に戻ったらどうするつもりだったのだろうか。そんなことは絶対にしないけど。
時間もあまりないし、任せられた仕事はやらないと気がすまない自分の性格が嫌になる。そう、思いながら会議室に向かった。

コンコン

『失礼します、2年1組の太田です。宮澤先生のかわりに来ました。』

人見知りな私は初対面の人の目が見れないので、俯きがちに話しかけた。

「昨日の盗撮犯やん。」

盗撮犯?この声にも聞き覚えがある。顔を上げてみると、昨日の綺麗なお姉さんだった。こんな、ドラマみたいな展開あるのかよと思ってしまった自分にうんざりする。

「君、高校生やったんやね。若くして盗撮とか、すごいんやね」

『いきなり、嫌味ですか、、。』

「ごめんごめん、冗談やから」

いたずらっ子のような笑顔で見つめられて、胸の奥がキュンとしたような気がした。

『時間もないですし、そろそろ行きましょう。』

こんなだらだらしていたら、授業前の休み時間が短くなってしまうと思い急かしてしまった。別に、休み時間に何かあると言うわけではないけど。休み時間が短くなったら、クラスはうるさいし、あわただしくなる。それが嫌いだ。

「私の名前は山本彩。太田さんの名前教えてや」

『太田ですよ。知ってるじゃないですか』

「それは、苗字やん。名前を教えてほしいねん。知ってるけど」

『知ってるならいいじゃないですか』

「なんか、冷たいな。いまどきの高校生ってみんなこんな感じなん?」

『いや、私が変なだけですから。』

「そかそか、でもまぁ仲良くしよな、夢莉ちゃん!!」

いきなりの名前呼びに驚きが隠せなかった。私が口を挟もうとしたら、ささ、早く行こか。時間ないんやろ?と逆に急かされた。つかみどころがない大人は嫌いだ。



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