御題所

□和綴十題
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「リナリーは強い子だなあ」

あれは、いつだったかな。いや、何時だったかなんて問題じゃなくて。たしか、ようやくエクソシストとして任務に行くようになった頃だったっけ。任務をこなして、傷だらけになっても、ようやく兄さんや神田やみんなに笑顔を見せてあげられるようになった頃。ティエドール元帥の下、初めて私と神田だけで大量のアクマを倒して帰ってきたある日のこと。



「リナリーは強い子だなあ」
報告書を提出した私にタップはそう言って頭を撫でてくれた。
「うん!タップが危なくなったら絶対私が守ってあげる!」
「はは、そりゃ頼もしいや」
そんな会話をし、じゃれ合っていた私達の横から、槍を刺すように呟いたのは私と同行していた神田だった。きっと自分だけ会話に置いてきぼりになったことが悔しかったのかな、なんて当時は思った。
「ふん。そんなんしてやる必要ねぇぞ、リナ」
「うっわカンダひでぇ!!鬼!!折角のリナリーの好意を!!」
「るっせぇ!何が好意だ!!テメェの身はテメェでどうにかしやがれ!!」
「こらカンダ!科学班のみんなは私たちの為に頑張ってくれているのよ?」
駄目じゃない!と両手を腰に置いて幼いリナリーは神田を叱る。この頃から、ちょっとこの同世代の少年に対してお姉さんのような態度をとることが癖になっていた。
「ほとんどお前の所のシスコンに手を焼いてばっかだと俺は思うがな」
「うっ!」
あっさりと言い負かされてしまった。まだまだ神田には体力でも口でも到底敵わなかったのだ。だけどまあ体力は男女の別があるとして、口論ではようやく最近五分五分になったところだろうか。そうよね、神田?
「あーっカンダがリナリーいじめたあああ!!室長ーっ!!」
けっして泣いたわけではないのに、遠目から私達を見ていたジジが突然声をあげた。大袈裟だ。そして室長、つまりコムイ兄さんが妙なロボットを従えて全力疾走してくるであろう数十秒後のことを危惧した神田も急に慌てだす。
「ジジ!テメ、黙りやがれ!」
案の定、私の名前を叫びながら兄さんが巨大ロボに乗って登場して、科学班に乗り込み、あちこちを破壊して暴れだす。大パニックになって、それから、えっと・・・。








大聖堂には私と神田の二人きり。巨大な十字架が掲げられ、数え切れないほどの蝋燭が灯されたこの場所は、死者を弔う場所だ。力なく座り込んだ石畳は氷のように冷たかった。

「…守りたかったんだよ」
「知ってる」
「だいすきだった」
「ああ」


ねえ、タップ…。


あなたが砂みたいに崩れてしまって、私は泣き叫んだわ。あの瞬間、傷だらけのこの手からあなただったものはサラサラと滑り落ちていったんだもの。



「あいつも、んなことを言ってた…と思う」

「思う、って……変な神田」

あなたはもう眠ってしまったのね、この冷ややかな土のしたで。

「・・・ありがとう」

感謝の言葉が思わず口から洩れた。けれどもさらに不思議なことに、私の目から涙はこぼれなかった。






ちょうえい[冢塋]墓、塚。








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