御題所

□和綴十題
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白い筋を描きながら、それは買い出し帰りの僕達の背後へと流れては消えていった。呆気なく霧散する、儚い存在。とは言え、その独特な香りは嫌でも鼻につく。嫌、ではないのだけれど。

「悟浄、少しは煙草控えてくださいね?健康に悪いですし、副流煙で僕や悟空が先に倒れたらどうするんです」

少しだけ言葉に棘を含ませたにもかかわらず、悟浄はあっさりフィルター越しに深く呼吸した。軽く湧く、殺意。

「ちょっと…聞いてます?」

ぼはぁ。そんな擬音が当て嵌まるかのように彼は再び白煙を吐き出す。

「そりゃ無理な話だ、八戒センセ」

声から表情から何から何まで、反省の色がない。まったく、この不良園児はこれだから手のかかる。

「はあ…貴方って、根っからの愛煙家ですよねえ…実は前世くらいから馬鹿みたいに吸ってたんじゃないですか?馬鹿みたいに」

大事なことなので二回言った。前世とは、自分も突拍子もない事を口にするようになったなあとつくづく思う。

「いやいや、案外お前のが吸ってたかもしんねぇよ?そんで、一日五箱くれぇ吸うの」

「はは、そんな筈ありませんってば」

一日五箱。それ、普通に考えて人が一日に吸える量ですか?

「んでよ、その時に来世のお前の分までそいつが吸っちまったんだよ」


「そうですかねえ…」


だとしたら、お礼を言わなくてはいけませんね。
僕の分まで、この害ばかりの嗜好品なんかを十二分楽しんでくれて、ありがとうございます。



…煙草は、美味しかったですか?







………………………………








「…あ、煙草切れた」

「日に五箱も吸ってりゃ、すぐ切らすに決まってんだろーが。流石に死ぬぞ、その量」

「嫌だなぁ、死が存在しない天界だから僕はこれだけ吸うんですよ。もし下界人だったら手もだしませんって」

「おっ、言ったね?んじゃ俺様はそんなお前さんを、ハイライト片手に眺めてやっか」

「うわ……それ、すごく腹立ちます」









節煙[せつえん]煙草の量を控えること。










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