白刃の城book
□破り捨てた常識法
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「そうだ、竜崎。完全犯罪は成り立つと思うか?」
月は思い出したようにゆっくりと言葉を音にした。
* 破り捨てた常識法 *
竜崎は瞳を伏せ思案することなく言葉を紡ぐ。
「そうですね…。私の意見を言わせていただけるのなら、可能だと思いますよ」
「そうか」
竜崎はゆるりと月を見上げ、微かにだが顔を緩めた。
「意外だという顔をしていますね」
「…お前なら否定すると思ったよ」
「でしょう。ですからあえて肯定してみました」
さらりと言い捨て竜崎は机の上に手を伸ばす。そして高級感漂うシックな箱の中からチョコレートを一つ摘み上げた。
「例えばこのチョコレートですが、一つ一つの区切りがありません。誰かが一つくらい食べてしまっても解らないでしょう。
持ち主がよっぽど楽しみにしていて数を数えていた場合と、犯人の口の周りにココアパウダーがついていた場合には成り立ちませんが」
「殺人はそう簡単にはいかないだろ?」
「おや、殺人を前提とした話でしたか」
態ととも本気ともとれない表情を浮かべ、竜崎は上を向きチョコレートを口に放り込んだ。
月は出された紅茶を言いかけた言葉と共に飲み下す。無駄な体力は使いたくはなかった。
「都会に行けば行くほど目撃証言は多くなりますが、そのどれもが善意からのものだとは限りません。他人との繋がりが希薄な人間が興味のない人間を視界に映しますか?」
「映さない…だろうな」
「あとはモラルの問題です。殺人を犯して罪の意識に苛まれない人間がどれほどいるのか…。
ですが最近の若者は他社に対する認識が少しおかしい。ホームレスを袋叩きにし殺害して正義の味方気取りでいる」
「ただの殺人犯、か」
「その通りです。法で裁かれるべき犯罪者ですよ」
竜崎は小首を傾げると透明な小瓶を持ち上げて覗き見た。
中の液体も透明で、月から竜崎の姿が少し歪んでいたがはっきりと見えた。
「大体完全犯罪というものは犯罪を犯罪と気付かせないものですよ。初めからなかったものを立証出来る人間が居ますか?」
「それは将来犯罪を犯すだろう子どもを殺してはいけないというのと同じ理論か?」
「…少し違うと思いますが、過程は同じでしょう。何度も言いますが、総ては結果論なんですよ」
竜崎は瓶の蓋を開け、何かの白い粉をスプーンで掬い中に入れた。そして蓋をする。月はじっと瓶の中に溶けていった粉を見詰める。一瞬で溶けたため見た目にはもう解らなかった。
「しかし通常であれば漠然とでも罪悪感が残るはずです。だから少し突ついてやれば」
竜崎は小瓶を上下に軽く振る。すると透明な液体が瞬く間に黒くなった。
「何か襤褸を出す。そこを見逃さなければいいのですよ」
また蓋を開け、竜崎は息を吹きかけ瓶を軽く振る。すると透明に戻った。
「報道される事件など実際の三割程度でしかないのはご存知ですよね?隠された事件など山のように在ります、それは裏の世界であれば顕著です」
「お前にも解けない事件も在るのか」
「言わせていただけるのなら」
大きな漆黒が月を捉える。月は半ば睨み付けるように見返しながら無言で続きを促した。
「私が携わっている事件に解決しないものは在りません」
「大した自信だな。驕りは身を滅ぼすぞ?」
「自分の意見に責任を持たなくてどうして事件が解決できましょう。夜神くん、私は私に絶対の自信を持たなければならないのですよ」
そして、と竜崎は続ける。
「たった一人でも私を信じてくれる人間が居るならば、その人のために私は毅然と立ち向かいましょう」
「誰もがキラの味方をしてもか」
「それでもです。誰か一人…私が砕けない限りは、私は私を突き通します」
そうだ、と小さな声と共に銀髪の小柄な少年が部屋に入ってきた。
「Lは誰にも負けない。そこに勝ち負けが存在するのならば」
揺るがない瞳は敵視するように月を映す。竜崎はおや、と言って瞬いた。
「立ち聞きとは趣味が悪いですね、ニア」
「ごめんなさい、L。メロがチョコレートがないと騒いでいたのできっとここに在るだろうと思って」
「見事な推理です。仕方在りません、少し分けてあげましょう。メロはどうしました?」
「あんまり暴れるものだから布団で簀巻きにしてきました。きっと怒っています」
「きっと拗ねてますね」
竜崎は優しげな瞳をメロに向け、チョコレートとクッキーの詰め合わせの箱を差し出した。
「二人で分けなさい。―――それともみんなでお茶にしますか?」
「ではメロを呼んできます」
ぱっと子どもらしく笑って、ニアはぱたぱたと駆けていった。それを見送ってから竜崎は月に向き直る。
「ということで、お茶にしましょうか。渡を呼びましょう」
竜崎は受話器を持ち上げるとおやつの時間だと告げる。そして月を振り返ると机の上とゴミ箱と
を交互に指差した。月は一瞬顔をしかめたが、諦めたように溜め息を吐くと机の上を片し始め
る。
「完全犯罪は成り立つでしょう」
竜崎はきれいに片付けられていく机を見ながら呟くように言った。
「しかし私の眼が届く範囲での犯罪の隠蔽は認めません。そう、それがどんなに近しい人間だったとしても」
小さい声だったが芯の強い声音が響く。月はほんの一瞬動きを止めたが、すぐに何もなかったように手を動かし片付けを続ける。
「ほら、竜崎、これを持っていてくれ」
「解りました」
竜崎は渡されたチョコレートの箱を抱えると、一つ摘み無造作に口に放り込んだ。
END
オリジナル設定キタ-(@∀@)-!!
月がキラとバレてなくてLと攻防戦してるとこに何故かニアとメロが*´艸`)
ニアとメロはLに懐いていればいいと思います。
第二部は全くと言っていいほど見ていないので月とL以上に偽物でごめんなさい…;;