虚空の城2

□あるいは世界の終焉に
1ページ/1ページ



跡部景吾は隣に並んで立つ男の熱を感じながら、繋がれた左手に力を入れた。ちらりと寄越された視線に、更に指に力をこめることにより応える。跡部よりも少しだけ上にある瞳を伏せ、男―真田弦一郎は唇を真一文字に引き結んだ。ああこれから一日が始まるというのに、自分たちの心はこんなにも暗い。ロードワークの最中にたまたま見つけた山の頂で上る旭を見詰めながら跡部は思う。ただ触れ合った手のひらだけが熱い。痛いだろうに、真田は跡部の手を払う素振りは見せない。それどころか、同等に力を入れて握り返してくる。言葉はない。しかし、それだけの行為のはずなのに、じんと心が温まるような錯覚さえした。喉の奥が苦しくて、眼の奥が熱い。これから自分たちは道を違えなくてはならない。こんな世間に反する不毛な関係は清算しなくてはならないのだ。しかしそれは簡単ではなかった。だから自分たちは未練たらしく手を繋いだままでいるのだ。別れたくない。こんなにも好きなのに、どうして。

「なぁ真田」

親に逆らって二人で生きていけるほど強くなかった。家は関係ないと捨て去ってしまえるほど強くなかった。二人の関係を周りに公言できるほど、二人は強くなかったのだ。まるで罪を犯しているような背徳感に悩まされながら、それでも二人でいるときは幸せで、目立ったことが出来なくとも構わなかった。二人がいればそれで良かった。なのに、何故それさえも許されないというのだろうか。些細なことで大喧嘩した日々が懐かしい。
なぁ、真田。もう一度跡部が真田を呼んだ。それに真田は何だ、といつもの様に短く答える。こんな時まで真田は真田だった。それでも、その声がらしくなく小さく震えていたことに跡部は気付いていた。

「一度、ここでお別れだ。俺が独り立ちしたらまた迎えに来る、お前を」
「俺で良いのか」
「愚問だな。お前じゃなきゃダメなんだよ」

そうか、と真田は返した。二人の視線は絡むことはなく、段々と高くなる太陽を追い続ける。跡部は眼を細めた。こんな約束、守れるかどうかもわからない。それでも口にしないでいることは無理だった。お前が良いんだ、と跡部はもう一度伝える。真田は再びそうか、と返す。

「ならば俺はお前を待っているとしよう」
「お前こそ良いのか、俺で」
「何だ、弱気だな」

くすりと口角を上げて真田は笑みを作る。それに、跡部は少しだけ眉を寄せただけに止まった。当たり前だろう、と思い、しかし声に出すことはしない。不安なのは、きっとお互い様だ。

「俺はお前を迎えに来るぜ、真田。認められなくとも、お前を掻っ攫うくらいは出来る男になって戻ってくる。追いかけられても逃げるまでだ。だがな、真田。お前はそんな暮らしに堪えられるか?」

まるで犯罪者。それほどの禁忌だとでもいうのか、跡部にはわからない。

「お前がいるのだろう?」

真田はそういって、やっと太陽から視線を移す。それに気付いた跡部が真田をその青い瞳に映せば、彼は不敵に笑んだ。

「もしかしたら一生認められないかも知れない。それでも跡部、お前が俺の隣にいてくれるのであれば、俺は何処ででもどんな暮らしだとしても、きっと幸せだと思うのだ」

そして、真田はきれいに笑った。


「きっと認められる日が来る。
    明日か…、 それとも、 」








(最後に勝つのは俺たちだ)










あるいは世界の終焉に
title:PINN(tp://pinnhino.yu-nagi.com/)

跡真。きっと、跡部よりも真田の方が男前なんだ。











[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ