虚空の城2

□そしてまた繰り返す
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※文章リハビリにいじめられたひよと面倒臭がりのべ

よく自分を傷付ける後輩がいる。
意識的だとしても無意識的にだとしても、自虐を繰り返すこいつはマゾヒストじゃないかとうんざり感じるのは俺の思い違いではないのだろう。こいつはいつだって自分を取り囲む世界を疑っている。優しさをまやかしだと嘘だと罵り傷付けられればやはりそれみたことかと罵る。世界が自分を傷付けるものだと認識しているのはそれを望んでいることに他ならないと思うのは違うのかそうなのか。
そんな俺にとってはどうでもいいことをぼんやりと足下に大の字になって寝転んでいる泥だらけの後輩を見下ろしながら考えているとやつは僅かに身動ぎをした。色素の薄い前髪に半分近く隠されている顔が引きつるようにしかめられた。歪んだ口許には乾いた血がこびりついていて、ああこいつはまた部活の先輩とやらに制裁にあったのかと気付いた。
しゃがみこんで青くなった瞼が痙攣しているのをのぞきこんで見つめるとゆっくりと茶色の瞳に自分が映った。と同時にひゅっと息を飲む音が聞こえた。目が真ん丸になったのを見てああこいつのこんな顔を見るのは初めてかもしれないと思った。
怯えと言うより驚きからくるものだろうそれにくくっと喉を鳴らすとやつは体を起こし見開かれた目を細め、それは前髪に隠れてよく分からなくなった。
制裁にあう原因はまあ色々あるが、こいつの場合は態度が悪いから絡まれるのだ。例え自分の方が能力的に上だと感じても年上には敬意を払わなければ縦社会では生きていけない。それを改められないのは不器用だから、だけではなくやはりそれを何処かで望んでいるからではないか。俺はまたその考えにいきつく。
こいつにとってのそれは被虐ではない。間接的であるが自虐だ。
俺は出来るだけ優しく微笑みこいつが望んでいるであろう言葉を思索した。
しかし意外に出てこない。沈黙の間にもやつは俺のことを睨んでいる。こんなにも人が優しく微笑んでやってるのに信用できないとは全く微笑ましいものだ。言葉が出てこないのは俺が真っ当な神経の持ち主で正直な話こいつは面倒なことを望むやつだからだ。
出てこないものは仕方ない。この変な沈黙がどうなろうと俺はしったこっちゃないのでぶちこわしてやろうと笑みを拭った。はぁ、と存外に疲れたのか出したかった言葉ではなく自然に溜め息が出る。そこでやつが自分の腕に爪を立ててゆっくりと拳を握っているのに気付き、なんて臆病者のマゾヒストなんだろうと思った。
爪を立てて傷付けるのは肉体だけではないだろうとちらりとやつの顔を見たら少しだけ泣きそうに歪んでいた。しかし今抱き締めてもきっとこいつは全力で拒絶するに違いない。
なんとも面倒臭いやつだ。


そしてまた繰り返
(
何もなかったかのように)



五百枝、迷子です。


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