白刃の城book

□氷の上のメサイア
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「お頭ァ」



凪の海の上で、アルファードがシャンクスを呼んだ。どうやら陸に上がるらしい。その顔を認めて、シャンクスは少し上等なラムのビンをアルファードに放る。急なことだったが、アルファードがそれを落とすことはなかった。

「アルフ、手土産も無しじゃあ、"これだから海の医者は"と呆れられるぜ」
「こりゃウッカリしとったわ。ご馳走さん」
「その分しっかり働いてくれよ。
ヤソップ、アルフに着いてけ」

じゃあ、ドクの御相伴に預かりましょうかね。ヤソップが軽口を叩いて肩を竦める。顔がだらしなく弛んでしまうのはもう性格だ。

「ルウとマクシーは何人か連れて南東の水と果物を運べ、ディルタは途中の果物だ、覚えてるな?何なら2,3人連れてっても良いぞ。
 ――――ラグナス!」
「ん―――?」
「船は任せた」
「了解。でもお頭はどうすんよ?」

ラグナスは欠伸をしながら陸に下りたシャンクスを見下ろす。それをだらしないと指摘する者はこの船には居ない。

「ちょっと散歩に行って来る」
「何人か連れてけよ、もしアンタに何かあったら副船長に殺されっちまう」
「もしも何かあったとしても、副に何か言えるかぁ?こんなにみんなに迷惑かけといてそりゃねぇだろ―」

シャンクスの大声に、クルー達が便乗して騒ぐ。そうだそうだ、副船長の奢りで宴会だー!船が一気に活気に満ちた。赤髪の船長が音頭をとるのだから、怖いものなしだ。

「そうと決まれば、さっさと副船長を探すぞー!」
「イエッサ――!!」
「んじゃ、解散!」

それぞれが仕事に取り掛かるのを確認することなくシャンクスは歩き出す。信用しているからこその行為だが、ベックマンならそれでいて確認を取るだろう。性格の違いだ。ベックマンとて、自船のクルーを信頼していないわけがない。少なくも、古参の幹部には全面の信頼を置いているはずだ。

「心配かけやがって」

シャンクスは、仏頂面を思い出して、くつくつと笑った。まだ鮮明に思い出せる。立ち姿も、タバコの煙や臭いさえ思い出せそうだ。
懐かしいなんて、思ってなんかやらない。






* * *







一方、アルファードはヤソップを連れてクードの家に向かっていた。途中、強いハーブの香りに辺りを見渡せば、自生しているのか、ハーブの群れを見付けた。シャンクスが飲んだのはこれだろうかと考えて、良くて観察して気付く。土が不自然に盛り上がっていた。

「どうしたよ、ドク」

ヤソップの言葉に、アルファードは顎でハーブの群生を差した。しかし専門でないヤソップは首を傾げるばかりだ。

「掘り起こした跡だ」
「そうだな…なんだろう」

後で調べてみよう、と小さく言って、アルファードはシャンクスに言われた通り、クードの家のドアベルを鳴らした。
二人を出迎えたクードは、薄い青紫のシャツに、インディゴのズボンというラフないでだちだった。武器を隠しているようには見えず、かといって素手で戦えるほど筋肉がついているようには見えない。ただ、頭脳戦は得意そうに見える。緩く弧を描いた口が、余裕めいたものを感じさせた。

「シャンクスさんの船の、船医さんですか?初めまして、クード・ラル・メルバスです」
「アルファード・ギルカだ。こっちはヤソップ、うちの狙撃手だよ。あんた、西の方の医者なんだって?あっちは医療が進んでるからな、御伝授願うよ」
「いえ…そんな大したことは…。私の方こそ、よろしくお願いします」

中に入れてもらい、イスを勧められて、アルファードは昨日のシャンクスと同じ席に座る。そして素早く視線を巡らせた。お目当ての赤い花を見付けると、眼を見開いた。だが驚愕を露にしたのは一瞬で、すぐにまた笑みを浮かべる。幸いなことに、クードはヤソップと話していてアルファードに背を向けていて気付いていない。それにほっとして、アルファードは口を開いた。

「お頭がハーブティを頂いたとか」
「持っていきます?ハーブは生命力が強いですから、幾らでも増えますよ」
「お、嬉しいねぇ。
…その赤い花は、ダメかい?」

その言葉にハーブを小さなプランターに移し変えていたクードの手が止まる。

「お頭から、薬になると聞いてね」
「…知らない?」

怪訝そうな顔をしたクードを見上げて、アルファードが言う。

「悪かったね、田舎者で」

苦心したアルファードを2、3秒見詰めて、クードは繕ったように微笑んだ。

「これは大変貴重なものなんですよ。私の故郷でさえ滅多に見ることが出来ない。花弁の一枚くらいだったら持って帰っていただいても結構ですが、苗はちょっと…。研究なさってみては如何です?」
「そいつはアリガテェ!未知のものってのは好奇心を煽るからなぁ」

シャンクスから貰った酒瓶をクードに渡すと、アルファードはニカリと笑った。
それを受け取り、クードは3つのグラスに注いでいく。ヤソップは差し出されたグラスを上機嫌で受け取った。これからきっと意味の解らない専門用語が飛び交うだろう中に黙っていなくてはならないのだ、酒くらい少しばかり上等なものを飲んだとしても、誰に文句を言われることもないだろう。
ヤソップは、グラスに口を付ける。鼻孔を擽ったのは、微かな、甘い香りだった。






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