天空の城

□仮想現実夢現
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手塚は閉じていた瞳をそっと開いた。別に寝ていたわけでない。どちらかといえば瞑想に近いだろうか。
何となく視線を窓の外に移してみる。西の空は赤く染まり、烏が群れをなして飛んでいくのが見えた。
その内の一羽が、ふらふらと近くの電線に止まる。怪我でもしているのだろうか、此処からは遠目でよく解らないが、多分そうなのだろう。他の烏は気付かずに飛んでいってしまう。その姿が見えなくなったところで、その烏は恨めしそうに小さく鳴いた。
まるで自分のようではないか。手塚は正していた背を、少し丸めた。何だか滑稽に思えて仕方なかったのだ。だが、丸めた背はもっと滑稽に思えて、すぐにまた正した。胸の靄は消えなかったが、慣れないことをするより良いと思い、小さく息を吐く。
下を見れば下校時の生徒たちが眼に入った。その中に菊丸たちを見付けて息を飲む。じっと見詰めていた。だが、彼らは最後まで気付かなかった。
予想はしていたことだ。だが、裏切られた気持ちになるのはどうしてだろう。
眉間に寄った皺に気付かないふりをして、手塚は手元の書類に視線を戻した。明日校庭20周だ、なんて愚痴っぽく思って、その思考に溜め息を吐く。自分勝手な。
泥々とした感情に流されないように、唇を噛んだ。


「手塚?」


眼の前に差し出された手に驚いて、軽く眼を見開く。いつの間に生徒会室に入ってきたのだろうか、そこには河村が心配そうな顔をして立っていた。その顔をぼんやりと見詰めていると、困ったように眉が下げられ、手塚は漸く我に返った。

「河村、…何故」
「明日の朝練、竜崎先生の都合で無しだっていうからさ。伝えておこうと思って」
「…そうか。それはご苦労だった」

その物言いに小さく笑って、河村は別に構わない、と言う。その微笑みが手塚の内の靄を消していくのを遠くで感じながら、また水鏡のように張り詰めていた湖面に波紋が広がるような、何かペースを乱されるような感覚に戸惑った。

「唇…そんなに噛んだら血が出ちゃうよ?」

核心には触れず、子供を宥めるようなやんわりとしたそれはそれでも手塚の心を逆撫ですることはなかった。
ね?と念を押すように首を傾げられ思わず頷けば、河村は満足したように笑った。

「何か在るなら、言えば良いよ。解ってくれないメンバーじゃないだろ?」
「俺は…」

優しげな瞳はあの烏を見たらどんな反応をするのだろう。そんな想いを乗せ電線を見遣る。だが烏など、何処にも見当たりはしなかった。









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お題06踏み外せば別世界のボツネタ(笑)



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