BASARA短編集
□梅雨のお散歩(その後)
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「ただいま戻ったでござる」
雨がしとしとと降り続けるこの時期に、濡れずに外を歩ける不思議な着物と履き物が上田城に届けられた。
差出人は不明。
こんなわけのわからない代物を、幸村は嬉々として装着し外へと飛び出し……現在帰宅した。
「お帰り、旦那」
どこからともなく声が響くと、すっと人影が現れた。
「佐助か」
「まったく、聴く耳持たずで困……て旦那っ!!」
はぁと盛大なため息をもらしながら歩いてきた佐助が、急に声を荒げた。
「む?」
荒げる意味がわからず、幸村は思わずこてんと首を傾げる。
「なんで『れいんこーと』着てるのに濡れてるのさっ!!」
冗談じゃないと慌てた佐助は、しゅばっと姿を消したかと思うと、手拭いを持ってすぐさま現れた。
「何で頭もかぶってないわけ?ってか、この蛙は何なのっ」
びたびたになっている幸村の頭の上には、何故かちょこんと蛙が座っていた。
その蛙は佐助の視線に気づくと、ちみっこい手をぱたぱたと振った。
「道を歩いていたら蛙が『雨は気持ちいいぞ』と言うので、一緒に雨に濡れていたのだ」
気持ち良いものだったぞと、笑みを零して言う幸村に対し、佐助はまたもやはぁとため息をもらした。
「そりゃ蛙は雨に濡れても大丈夫だろうけど、旦那は風邪でも引いたらどうするの」
蛙を器用に避けながら、佐助はわしゃわしゃと幸村の髪の水分を拭き取っていく。
「某はそんなに柔では……くしゅっっ」
「ほら、言わんこっちゃない。こりゃ湯浴みをして体を温めないと駄目だね」
ばさりと手拭いを幸村の首にかけると、佐助は大人しくしていた蛙に手を伸ばし頭を優しく撫でた。
それが気持ちよかったのか、蛙はぐりぐりと頭をすり付けてゲロロォと鳴いた。
「じゃ、俺様湯浴みの支度してくるから、旦那は蛙を外に放して湯殿まで来るんだよ」
「……わかったでござる」
それ以降『れいんこーと』は幸村の目の届かぬ所に隠されたと言う。
終わり。