消失点
□分岐点G
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…_
話し合いが現実味を帯びてきた時、雅も決断をし始めていた。
ももに言おう。
ラストコンサートがおわったら、ももに伝える。
一度決めたらブレないタイプだ。
ほんの少しだけ、なぜか振られないという自信もあった。
長く忘れていた、初めてももを好きと感じた時。
忘れると言いつつすぐ次の日わざとももが支度でバタバタしている時、冗談混じりに
「もものこと、意外と好きだったわーベリーズだけの時は思わなかったけど」
と冗談に流せるように明るく言ってみた。
ももはピタッと動きを止めゆっくりこっちをみた
なんだかそれが怖くなって早口で
「…っていうと思った?普通くらいでしたー」と冗談にかえた雅にももは視線を外した。
「ももは前からみーやんのこと好きだけどね〜」
と感情の読めない声色で言うももになんと返していいのかわからずその背中を見つめながら怖気付いてあっそ、とだけ返した。
「もー照れ屋さん!もものこと大好きなくせに」と明るい声にもどるももに背を向けた。
それに対して「まあまあだね」としかかえせなかった
あの時は子供すぎたな…と思う。ももの本気がこわかった。おふざけが崩れるのが、ももとの関係が壊れるのがこわかった。
ももはこのライブが終わればあたらしいグループのPMになる。
きっと会うことだって減ってしまう。もとから動かないメッセージもきっとこのまま動かない。
コンサートが終わり打ち上げも後日ゆっくりということでゾロゾロ帰り出すメンバーやスタッフのなかにももを探してつかまえる。
「…ちょっと」
ももは分かっていたような落ち着いた態度で
「話さなきゃいけないね」
なんて言ってすたすたと人気のない外まで出て行った。
雅が先に口を開く
「みやはね、ももがすき。中学の時から、すきだった。ずっと抑えて今日まで来た。」
「うん」
「ももは?もももみやのこと好きだと思ってるけどどうなの?」
「ふふっ。そんな怖い顔で、みやびちゃん」
また俯きがちに笑っている。
「言って、もも」
「遅いよ、みーやん。ももはこれからPMの仕事にバラエティ、新しい場所でまた一からやっていかなきゃいけないんだよ。」
呼び方がころころ変わる。ももの本心はどれだ。
「あのとき続きを言って欲しかった。嬉しかったのにみやは私に背を向けたでしょ。」
やっぱりあの日のことだ。初めて伝えた日。
…いや、伝えかけた日
やっぱり伝わっちゃってたんだね。かっこ悪いな
「ももは、まだ何も考えないでよかったあの時に付き合いたかった。もうそんな呑気なことも言ってられないよ」
振られた…?
「もも、遅くないようちらはさ…「みや。」
ももがまたあの切ない顔で微笑む。
震えるまつ毛が、雨で冷えた頬の白さが、薄くて小さな唇が、ももの全てがやけに繊細に見える
「ももたち、今じゃなかったら一緒にいれたかなぁ」
ももがこれ以上は言わせないと言うように、
いつもの少しおちゃらけた笑顔に戻りみやの頬を優しくなでる
泣いてしまいそうになるのをこらえてわかったとだけ伝えるとももは優しく頷いて、
そして手を引いて寒いからと楽屋へ戻る道を遠回りして一緒にゆっくりあるいた
楽屋に戻る道で色んなことを話した。
二人だけの思い出、あの頃は不器用だったもんねなんて、まるでもう今日も思い出になってしまうかのように。
だけど、なぜか幸せだった。
ふたり同じ思い出をもっていること、過ぎ去ってしまったけど同じ気持ちの時間があったこと、ずっと平行線だと思っていたけどその線はかすかに触れあっていたこと。
楽屋に戻ってからはお互い何もなかったように荷物を詰め、メンバーとしての会話を続け、最後にはじゃあねと言い合って帰った。