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□最愛の人
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久しぶりに、姉上の夢を見た。

姉上が俺の名前を呼ぶ夢。
姉上が俺の頬を撫でる夢。

あの優しい笑顔が忘れられなくて。
出来ることなら、また姉上に触れて貰いたくて、名前を呼んで貰いたくて、

(柄にもなく、結構効いてんじゃねぇか…)

巡回サボって河原で昼寝してやる。
こんなに日に、巡回なんか出来っかよ。

「あ、沖田さんだ」

訊き慣れた声が、頭の上から降って来て、閉じていた瞼を上げると、思った通りの奴が、思った通り買い物袋をぶら下げて、俺を覗き込んでいた。

「ダメガネ」

眼が合ったから呟くと、ムッとした顔で新八です!なんてムキになって言うから、思わず笑ってしまったじゃねぇですかィ。

「沖田さん、あんた、またサボりですか?」

志村はそう言って勝手に俺の隣を陣取った。
呆れた様な顔で俺を真っ直ぐ捉えた、レンズ越しの瞳が、微かに揺れた気がしたけど、俺はそれを、観なかったことにする。

「まあそんなところでさァ」

寝そべっていた上半身を起こしながら、志村を観ずに答えた時、遠くで子供が母親に連れられて帰って行く声がしていた。

昔よく、姉上に連れられて真選組から帰っていた時の事を思い出した。

随分昔の事で、懐かしい。
何もこんな時に思い出さなくても良いのに、と俺は自分の記憶を呪ったが、遅くて。
仕方ねぇから言葉を紡いでみた。

「新八君はパシリですかィ?」
「違いますよ。夕飯の買い出しです」
「母ちゃんみてェ」

そういえば腹が減ったなァ。
姉上も、今頃よく買い物に行ってたっけ?

河原に秋の冷たい風が吹いて、志村の髪を揺らした。それに、少し眼を細目る仕草が、どこか姉上に似ていて、俺は少しみとれていたのかもしれない。

「今日はどうしたんですか?」

その言葉に、俺は目を見開かずには居られなかった。

(総ちゃん、今日はどうしたの?)

いくら上手く隠したつもりでも、姉上はいつも、俺が落ち込んでいると、そう言って視線を合わせて頭を撫でてくれた。

志村と居ると、どうもいけねぇ。
こんなにも、姉上の事を思い出しちまう。
どうしても志村と姉上を重ねちまう。

「…ったく、あんたにゃ敵いやせんねェ…」
「あ、僕 沖田さんのそんな顔、はじめてみました」

志村は嬉しそうに、眉を八の字にして微笑んだ。その綺麗過ぎる笑顔に、俺は思わず、息をのむ。

いつからだ?




 
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