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□ただお前を
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「潮江先輩っ!僕と付き合ってるのって会計委員の仕事手伝わせるためって本当ですか?!」
「…はぁ?」

スパァンッと物凄い勢いで襖を開け飛び込んで来たかと思うときり丸は俺に詰め寄りそう怒鳴り付けた。

俺の反応を観てきり丸は「だからぁっ」と、また同じ台詞を繰り返す。

そうではない。
何をいきなり訳のわからんことを言っているんだお前は。と言いたいんだ。

確かに、会計の仕事が団蔵の必要以上に汚い字のせいで行き詰まった時にはきり丸に手直しを手伝って貰うこともあるが、俺がお前と付き合っているのは、お前を愛しているからで、そんな下らん理由等ではない。

誰に吹き込まれたかは知らんが(大方仙蔵であろう。)、お前はそんなこともわからんのか。

と、腹の中で言い放ち、眉間に皺を寄せた。

何故声に出さなかったのかと言うと、目の前の、涙を必死に堪え、嘘だと言ってほしそうな顔をしたきり丸が可愛いかったからだ。

俺がどれだけお前を愛しているのかもわからん様なにぶちんは少しからかってやろう。

そんな軽い気持ちだった。

「そうだとしたら?」

余裕の表情で視線を交えると、きり丸が酷く傷付いた顔をした。

これ以上からかってはいけないと解ったが、その反面、もっときり丸の弱い顔が観たいと言う欲望に駆られていた。
その時、つ、と、きり丸の白い頬に、一筋の涙が伝った。

俺はそのあまりの美しさに観とれ半分、呆気にとられ、咄嗟に「冗談だ」という言葉を音にすることが出来なかった。

「潮江先輩のバカッ最低っすね!」
「落ち着け、きり丸」
「落ち着いてられますか! 僕は本気で…潮、江先輩の こと…っ」

ついには嗚咽を漏らして泣き出してしまったきり丸に、ちょっとからかうつもりが深く傷付けてしまったと後悔した。

きり丸がこんな風に泣くとは思っていなかったのだ。

俯いてしまった為、滴はぽたりぽたりと畳へ落ち円を描き色を濃くしてゆく。
これ以上どうしようもなくなって肩を震わす小さな身体を抱き寄せた。

「きり丸、俺がお前とそんな下らん理由で付き合う別けないだろう。お前があんまり可愛いんで少しからかってやるつもりだった。…すまなかった」

力を込めて肩を抱くと、ぎゅ、と胸の辺りを掴まれた。
ぽつりと、よかった、という心底案著した風な声が訊こえ、再びきり丸の耳元で、悪い事をした。と呟いた。

俺が"どれだけお前のことを愛しているか"ときり丸へ対し思った言葉を、そのまま返された気がした。

きり丸がこれ程までに自分を愛してくれている等、夢にも思わなかったのだ。

「なにニヤけてんすか」

泣き止んでは居たが眼を腫らしたきり丸が形のいい眉を眉間に寄せ、冷たい視線を向けて来た。

「お前を泣かして悪かった…しかし、その分お前がどれ程俺を深く愛しているかがわかったので嬉しいんだよ」
「じゃあ…僕は証明したんですから、潮江先輩も僕をどれだけ愛してるのか証明してください」
「言ったな?」

拗ねた様な声音と表情がなんとも可愛らしかった。

俺はきり丸の肩へ手をやると、触れ合う程度の接吻を落とした。

私にはお前が居なければならない。

この様な感情を抱くなど、忍者として失格なのかもしれないが。
今はそれでも構わないと思える。
こんなことは昔の俺なら到底有り得なかっただろう。

「きり丸、愛している」

唇を離し、真っ直ぐにきり丸の瞳を見据えると、花開くような満面の笑みが帰って来た。

「僕も愛してます!潮江先輩」

俺はただ、お前を、愛してしまって居るのだ。










 
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