ホノ暗キ海ノ底

□誠実なヒト
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私達が辿り着いた春島は
桜の花が満開だった…





   誠実なヒト





ゾロはとても無口な人で
ちょっと恐いけど
誠実な人だと私は思う

ただどうしても
最近不安になる
どうして
私の気持ちを受け入れてくれたのか…

恋人なのに、
私達は以前と何も変わらない

それだけゾロが真剣なのか

それとも私に興味がないのか…




どうして
どうして
どうして




夜…一緒に見張りをしてくれるのに
ねぇどうして
距離を置くの?




春島に着いて二日目、
私は船首で瞑想にふけるゾロの背中に
無言で問い掛ける…

私の声はあなたに届かない

自分の中で勝手にそんなことを言って
私は目に涙をためて
メリー号を飛び出した…




走って
走って
走った




島の反対側まで来ただろうか?

自分がどこにいるのかわからない…

帰り道も…

ドジな私は勢い良く転び、足をひねり、歩けず、
座り込んでしまう

樹齢何年だろう
本当にとても大きな桜の木に背をあずけて
私は空を見上げた




優しい風が吹くたびに桜の花びらがひらひらと舞う光景は
幻想的で時間の感覚がなくなってしまう




何時間たっただろう……
あっという間に夜になってしまった


ちょうど今日は満月で
月明かりのおかげで明るかった


とても綺麗で幸せな気分なはずなのに


あなたがいないのが
こんなに
さびしい……


不思議ね、ゾロ


ボーッとそんな事を考えていると、
隣に人の気配…


「おい……」


見上げるとゾロが立っていた

ゾロは私を一瞥すると、
隣に腰を下ろした




ナニモイワナイ
ナニモキカナイ




本当は言ってほしい
“大丈夫か?”
って





ゾロの手が私の手に触れ
そして、にぎった…


それは初めてのことで、
びっくりしてゾロを見た


ゾロの手は汗ばんでいた


私の方でなく、前を向いているゾロの横顔

汗が雫のように流れ落ちる

きっと私を一生懸命探してくれたから

今ここにゾロがいる




すぐにわからなかった自分がはずかしかった…




「……好きだから、
……そばにいてほしい」




ウレシイノニ
ナミダガデテ
トマラナクテ




でも精一杯微笑って
私は答えた




「はい……」





東の空がしらんで、
うす明るくなってくる頃




私はゾロに体を預けながら
メリー号への帰途についた……


二人の間に会話はなくても

桜が舞う中、
優しい空気が
二人を包んでいた…


    吐in



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