アスカガ短編小説

□Sun*flower
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その日はやけに朝早く目が覚めた。

う…ん、と重い瞼をゆっくりと持ち上げると、枕のすぐ傍に置いてある目覚まし時計がいつも起きる時間よりも1時間程前の数字を短針が指しているのが見える。
いつもならもう少しだけ、とそのまま再び夢の世界へ誘われるところだが、今日は違った。
頭こそ未だに冴えてはいないものの、カレンダーを見ない内に今日という日が何を示すかのか、考えただけでもわくわくしてしまう。
とん、とベットから若干飛ぶように降りると、少し肌寒くなった朝に耐えるように薄い上着を羽織ながらアスランは居間がある1階へと降りていった。

たった1時間しか早く起きていないのに、この室温の差はなんだろう。
スリッパを穿いたり上着を羽織ったとはいえ、足元が特に冷えてくる。アスランは少しぶるっと体を震わせながら、居間のドアを開けた。

「おはようございます、母上。」

この時間には既に身支度を整え、朝食を作っている母。
いつもアスランが起きるぐらいに家を出るため、ほんの数分、まさにお出かけ前のキスをするぐらいしか顔を合わす時間はないが、今日はアスランの朝が早いために一緒に食べれそうだ。

…そう思っていたのに。

アスランの声だけが、空しく居間に響いた。

「…母上?」

もう一度呼んでみる。しかし、母はおろか誰もアスランの声に反応する者はその部屋にいない。
シ…ンと静まり返った空間にアスランは只一人居間のドアの前で立ち尽くしていた。
と、アスランは起き抜けの頭で咄嗟に1つの希望を見出す。
…もしかして母はまだ寝ているのではないだろうか?普段から仕事尽くめの毎日なのだから、たまの寝坊や急な有給休暇だってありえる。
いや、あの真面目な母のことだから寝坊なんて限りなく低い可能性だ。…ということは、やっぱり休暇、だったりするのではないだろうか?
だって今日は…今日だけは…。。

ふ、と浮かんだ最悪のシナリオに頭を振りながら、アスランはそのまま居間へと入った。
が、残酷とはまさにこのこと。
アスランの書いた最悪のシナリオが、1枚のメモ用紙に書かれて机の上に置いてあった。


「…母上は……今日は帰らない…?」


かたかたと震える手に握り締められた1枚のメモ用紙。
そこには恐らくかなり急いでいたのだろう、走り書きのような文字が並んでいたが、それは確かに母の字だった。
急な仕事で早朝から出勤したということ、そして今日はいつも以上にいつ帰れるか分からない、という内容にアスランは愕然とする。
体だけではなく、一気に心の方まで冷え込んできた。
仕事だから仕方がないのは充分承知している。母が如何に自分や家族を愛しているか、大切に思っているかも分かっている。

「……バカだ、僕…っ…!」

…何をそんなに楽しみにしてたんだろう。
…何でこんなに舞い上がってしまったんだろう。
母上はお仕事、父上もお仕事。なら、仕方がないじゃないか。

だが幼いアスランは、理解は出来ても当然心が上手く付いて行かなかった。
胸の辺りがすごく苦しい。けど、どう言葉で表していいのかも分からない。
そのイライラが更にアスランを苦しめ、一粒の涙となってアスランの頬を濡らした。

「…誕生日なんて、大嫌いだ!」






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