アスカガ短編小説

□スピカ
1ページ/8ページ


見上げた空はどこまでも青々としていて。


見つめる先の海は静かに水面を揺らし。


吹き抜ける風は大地を呼び起こすように木の葉を舞ってみせる。








-----眩しすぎる程の光を放ち、全てを包み込むような温かさを持つ太陽の下で。






スピカ







小春日和となったこの日、アスランは一人オーブのとある森の外れへと来ていた。
森、と言っても然程大きくもなく、少し歩けばオーブの海を見渡せる小高い丘に出る。
道という道がない為、多少背の伸びた草達の中を掻き分けるように進む必要があるが最初と比べれば随分と慣れたものだ。
以前、彼女に手を引っ張られるようにして連れて来られた思い出は少し恥ずかしくもあり、懐かしくもある。

ざっ、ざっ、と手を草で切らないよう注意しながら奥へと進むと、やがて辺りが明るくなり、草達もその進入を拒もうとはしなくなった。
この森は不思議なもので、まるで知る者でしかこの場所への立ち入りを禁ずるかのように、ある程度奥へ行くと途端に歩き易くなる。
そう、彼女と”認められた者”でしか入ることの出来ない場所。

……は、考え過ぎか。

…どうにも最近自分にとって都合の良い解釈をしてしまう傾向があるらしい。
この前久々にイザークやディアッカに会った時も、自分の最近様子を聞いては「気持ち悪い」だの「変わった」だの言われ放題だった。
せめて”前向き”、ぐらい言って欲しいんだけども。
でも確かに、以前と比べたら大分……変わったんだろう。自分だけではなく、彼女も。
彼女の変化を表すように、以前のような不安定な情勢ではなくなっているし、何より輝きが増した気がする。
綺麗になった、と言えば一言で済むが、それだけじゃ表せない強さと輝きを体に宿している。

手を伸ばせば届くかもしれない。けど、まだその時間(とき)じゃない。
俺も、彼女も。

近いようで遠い、遠いようで近い。そんな距離を保ちながら今は別々の道を歩んでる。
決して今は共に同じ道を歩めないけども、……信じたい。


この森のように、道なき道を歩んでも辿り着く場所は一つなんだと。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ