穴蔵の供物

□憂欝な雨、好きな雨
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 映画館の出口で、歩はぴたりと足を止めた。
「……」
「どったの、布施センセ」
 終了早々トイレに行っていたトーヤが不思議そうに肩口から外を見やると少し眉を寄せる。
「う〜わ、雨だよ…」
 小雨ならまだ可愛いものだが、どしゃぶり。一歩でも外に出ようものならたちまちびしょびしょになってしまうだろ。
「これじゃ帰るに帰れないよ」
 確かにその通りである。
「どうするよ?」
 至近距離で顔を覗き込まれて、歩はビクリと固まった。
 近すぎだろ、てめぇ…
「布施?」
「…っ」
 首を捻るトーヤに、歩みちらりと視線をそらす。
「どうするって…」
「やっぱ雨宿りですかね」
 傘を買いに行くと言おうとして言葉を遮られ、歩はムッと眉間に皺を寄せた。
 雨宿りだ?
「…んで」
「え?だって、一番近いコンビニまで十メートルは有るし、第一この雨じゃ出た瞬間に『傘なんざもういらねぇ…』って気分になるでしょ」
 あ〜ぁ、と呟くトーヤに、歩は小さく溜め息を吐いた。
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