妄想の泉
□一途なサンタ
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12月24日夜
則宗はある人物を目にして足を停めた。
阿部ちゃん?
「………」
12月25日朝
「おい二号、いい加減に起きないと遅刻するぞ〜」
「んあ〜?誰が二号だって〜〜」
阿部の台詞に、条件反射で則宗が目を覚ます。
「お、起きたか。早く準備しろよ」
「お〜」
のそのそと起き上がると、枕元に何かが有る事に気付いた。
「んあ?なんだ?」
プレゼント?
華美な包装ではないが、それとしてプレゼントと分かる包みに、則宗は首を捻る。
「阿部ちゃん?」
「何よ?」
何の事だか分からないという阿部の表情に、ますます則宗は首を捻る。
「頑張り屋の則宗君にどっかのサンタさんからプレゼントなんじゃないの〜♪」
んなバカな。
「ま、くれるってんなら貰っとけば?何入ってんのよ?」
「……」
それでも則宗は納得いかず眉間に皺を寄せる。
「お〜い、取り敢えずオレは先行くからな、飯遅れんなよ」
「ん〜」
則宗は生返事を返すと、慎重に包装へと手を伸ばした。
阿部が食堂に着くと、その人物はすでに席に着いて朝食を口にしていた。
「おはよう」
阿部が話し掛けると、律儀に箸を置く。
「ああ、おはよう」
「今朝二号にサンタが舞い降りたぞ」
「…そうか」
阿部の台詞に小さく答えると、再び箸を手にする。
「お?気にならないのか?」
「…別に」
「へ〜」
正宗の返事に意味深な笑みを零すと、自身も彼の目の前に座り箸を手にする。
「じゃあ勝手に独り言でも話しますか」
「…」
「今朝の二号君は突然のクリスマスプレゼントに驚いて朝の支度も出来ないご様子でした」
「……」
正宗はまるで報告のような阿部の台詞を黙って聞いている。
全く、この双子は何だってこう…
素直じゃないのかと阿部は深々と溜め息を吐く。
するとガシャンと荒々しい音を立てて阿部の隣に誰かが座った。
「お、間に合ったのか」
プレゼントの中身を確認するとすぐに則宗は急いで支度をすませ、自室を後にした。
中身はバッシュ。
しかも現在使用している物と全くの同タイプ、同カラー。
無頓着のように見えてその実、気に入るとそれに執着して他は使わない。だから当然今持っている物はすでにボロボロ。同じ物を買うかと悩んでいた矢先のこれである。
んなもん知ってるの、アイツくらいしか居ないだろ。
それに気付くと、昨日の阿部の不審な行動にも合点がいく。
おかしいと思ったんだよ。アイツが阿部ちゃんにクリスマスプレゼントとか。
本当は昨日現場を見てしまった瞬間、何とも言えないムカムカしたものを感じてしまったのだが、則宗はそれを頭の奥底へと追いやる。
食堂に着くとすぐに目当ての人間が目に入り、則宗は朝食を手にすると脇目も振らずに近づく。
一人ではない事にホッとしてしまう反面、一緒に入るのが阿部なのが内心気に入らなくもある。
「お、間に合ったのか」
どっかりと腰を下ろすと阿部が話し掛けてくる。
「おう」
さて、どう切り出すか。
何食わぬ顔で食事を続けている正宗が憎い。
少し位気になるふりとか出来ないのかよ。
最初から名乗り出るつもりなどないであろう事は分かっていながらも、心の中でそんな風に毒づいてしまう自分が居る。
聞きたいのに聞けない。気になるのに気にしたくない。
そんな二人にばれないように、阿部は小さく溜め息を吐く。
まったく…
「で、中身は何だったのよ、則宗」
「ん?」
則宗はちらりと正宗の表情を伺ってからゆっくりと答える。
「バッシュ」
「へ〜」
それはまた
「まあ、貰えるもんは有り難く貰っとくさ」
その台詞に正宗がクスリと笑ったのが目に入り、則宗は目を逸らす。
くっっそ…
何食わぬ顔で食事を続ける正宗とあからさまに悔しそうな顔なのに口には出さない則宗。
両方を見比べて阿部は諦めに似た溜め息を吐く。
素直じゃないねぇ、二人とも。
そんな所ばかり似なくてもとは思うが、それでバランスがとれているのならとも思う阿部だった。