穴蔵の宝物庫

□緩和及第
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「うわ、ヤッベ」
次の授業の準備をしようと則宗は机を探っていて気がついた。
「どした?」
そばにいた同じクラスの阿部が訊ねると
「…辞書忘れた」

マズイことに次の授業の担当はわりと厳しい方に属するのである。
「1号に借りればいいじゃん」
ため息をつく則宗にすかさず阿部はケロリと言い放った。
「あーも〜っだから阿部ちゃん、正宗は1号じゃないしオレも2号じゃないっつーの!」
中学の頃から正宗と則宗のことを1号2号と呼び続ける阿部に、いささか閉口しつつも則宗は毎回訂正するのを忘れない。
「まあまあ」
そんな則宗の言動にはすでに慣れきっている阿部は教室を出て行きかける。
「阿部ちゃん、トイレか?」
「あれ?辞書借りに1号んトコ行くんじゃないの?」
「なんで阿部ちゃんが行こうとするんだよ?」
則宗が訊ねると阿部はイタズラを楽しむ子供のような表情で笑いながら
「1号に癒されに行こうかと思って♪」
などと返事を寄越した。
「ッ正宗は癒しグッズじゃねぇよッ!!」
ガタンッと立ち上がると、不機嫌な表情の則宗は先に教室を出ようとした阿部を追い抜き早足で正宗の教室へ向かう。





「なーんて、あの頑固者の1号に癒されてんのはオレじゃないでしょーが」
阿部はくくっと小さく笑って則宗をただ見送るのであった。
 

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