貰い物/捧げ物

□特殊リクエスト
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唐突に。

いつも手にしていた文明の利器を手放したくなった。






最近は何処にいても直ぐに捕まってしまう。
理由は単純明解、もう国内の殆どの人が持っているであろう携帯電話だ。
その上芸能関連という厄介な職業に就いているからなおさらだ。
それでなくとも仕事なのか私事なのかの境が曖昧な職業。
しかし、一護はそれが嫌いなわけではなかった。
むしろ、楽しいと思っている。
たまに芸能故の不快なこともあるが、それ以上に回りからの暖かい反応があるか
らだ。
例えばそれはラジオでの反響であったり、また、別のアーティストとしたデュエットの感想であったりする。
しかし、それでも。
たまには嫌になることは誰にだってあるのだ。
いくら好きなこととは言え。
小さくはあ、と息を吐くと机の上にメモを残し、携帯電話をポケットの中に突っ込んだ。


「一護サン、どこに行ったんスか?」
ふと、楽屋で声が上がる。
浦原のものだ。
一護のマネージャーの。
「冬獅郎サンにでも聞いてみますかねぇ」
机の上に残されたメモを見て、呟く。
そのすぐ横には、仕事専用の携帯。
一護が芸能界に入るにあたって、社長の夜一と浦原が渡したものだ。
一護は、それを殆ど手放してはいなかった。
今日の、今までは。
「……どうせならプライベート用の番号も控えておくべきでしたね」
扇子を開くと、浦原は呟きそのまま楽屋を後にした。



「冬獅郎サン、居ますか?」
一護の楽屋からそう離れて居ないところにある冬獅郎の楽屋。
それは、プロダクションは違えど共演し、徐々に仲が良くなりつつある一護と冬
獅郎に番組プロデューサーが配慮した結果だった。
「あぁ、居るが。何の用だ?」
声と共に開いた扉。
そのまま浦原は中に通される。
まだ番組収録までに時間がある為か、楽屋の中には誰も居ない。
「一護サンが何処に居るか知りませんか?」
中に入り、直ぐに本題を切り出す。
「いや、知らんな。居なくなったのか」
「えぇ。こんな書き置きがあったんで、日番谷サンなら何か知っているかと思い
まして」
ポケットから一護が書き残したメモを出す。そしてそれを机の上に置いた。
『ちょっと外に出て来ます。収録までに帰れそうになければ連絡します
 一護』
「……」
「何かわかりそうっスか?」
「…あっているかは分からないがな…」
メモをまじまじと見ながら呟いた。
「そうっスか…じゃぁ一護サンを任せても良いっスか? アタシは準備をしなけ
ればならないんで…」
心持ち済まなさそうな声が聞こえる。
「あぁ」
冬獅郎が頷くと、浦原は楽屋から出て行く。
「多少の遅れは誤魔化しておきますから」
去り際に言い、頭を下げ。
それを聞き、冬獅郎はそういえば今日の収録は浦原も一枚噛んでいたな、と思い
出していた。



楽屋の奥にある黒髪の鬘をかぶる。
いくらこんな所に芸能人が居るはずはないという心理が働いたとしても、冬獅郎
の銀髪は目立ち過ぎる。
それは一護にも言える事だったが。
「ったく、無駄に心配掛けさせる…」
小さくはあ、と息を吐くと机の上に残されていたメモを携帯電話と一緒に、ポケ
ットに突っ込んだ。



昼下がりの公園。
幼稚園児が母親同伴で遊んでいる。
そこで一護は、ブランコの上に座っていた。
彼らは一護には興味が無いのか、それとも自分の子供で手がいっぱいなのか一護
をみても騒ぎたてるような事はない。
最近は不審人物も多く、ちょこちょこと歩き回る彼らを見ているのが精一杯なの
かもしれない。
ただ、たまに「クロサキイチゴだ」とか、「オレンジのにいちゃん」という声が
聞こえるだけだ。
「そろそろ浦原さん、気付いたかな」
子供の集団から目を離し、空を見上げ、ブランコをゆっくりと漕ぐ。
「一護。危ないだろ」
「どぅわ!? な、冬獅郎!?」
慌てた声が響く。一斉に公園に居た母親達に見られた様な気がした。
「そこまで驚く事無いだろ、折角探しに来てやったのに」
「なっ!? 誰も探しに来てくれなんて頼んでねぇ」
「嘘だな」
「何を!?」
反射的に声が大きくなる。
周りの注目度は高くなる。
オレンジ頭の芸能人と、そこそこの人気を誇る者と同じ名の黒髪の人。
ここまで騒ぐと、バレるのも時間の問題だ。
「…一旦…あの中でも入るぞ」
言うと同時に一護の手を引き公園の片隅にあるトンネルもどきの土管に近付いた

土管の中に入る。すると、人の目は届かなくなった。
土管の両脇から覗く以外は。
しかし、なかなか覗く者は居ないだろう。
ここは、恋人達の語らい場と暗に知られているのだから。

「なんで嘘だって言えるんだよ」
多少は落ち着いたのか、先程よりは小さな声で問う。
「あ? それはお前、メモ残してただろ」
「…なんで知って……浦原さん!?」
思い当たった事に頭を抱える。
「あぁ」
冬獅郎が軽く頷くと、一護は頭を抱えて縮んだ。
元から座って居るのが限界だった土管の中で。
「ほら、行くぞ。今日収録あるだろ」
「……」
「一護?」
「…お前には、見られたくなかったのに」
「何故?」
「お前は、優しいから」
顔を隠したまま呟く。
「優しいのはお前だろう、浦原さんにメモまで残して」
「…それは、浦原さんが心配するから」
「そういうことを考えられるのが(優しい)んだろ?」
「……」
ゆっくりと冬獅郎は一護に近付く。
一護はそれに気付いているのかいないのか、身動き一つしない。
「それに俺のは優しさなんかじゃねぇ」
「そんな、わけないだろ」
「いや、違うな。お前じゃなきゃ来てなかった」
一護が驚いた様に顔をあげる。
「…んな、特別っぽい言い方…」
呟く声。
驚いた様。
「…あ」
冬獅郎が唐突に声を上げた。
「…冬獅郎」
「忘れろ」
「冬獅、」
「気にするな」
話しかける隙も無い。
「とうしろ…」
さり気なく出ようとする冬獅郎の服を軽く掴む。しかし、冬獅郎はそれを振り切
って外に出た。
後には出るに出られない一護だけが残されて。



「(収録…どんな顔して出ろっていうんだよ…)」

互いが互いに同じことを思いつつ。



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片思い×片思いの芸能パロ。芸能の意味はないかもしれない…
芸能パロ、でリクを貰っていたのですが、芸能本編に関係なくて申し訳ない;

                        20080629〈了〉 


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