言の葉を紡いで何処へ行く

□ふわり。
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   春の日常



 あたたかい光が辺りを照らす。
 春特有の、陽気。
 それに誘われるように、黒崎一護は草の上に腰を下ろした。
 一護の座っている草むらの、川を挟んだ向こう岸では桜が花を咲かせている。
 「こんなにものどかなのになあ」
 誰に言うともなく、一護はぽつりと呟いた。




 それから少し時間が経ち。
 時刻は午後二時ぐらいだろうか。
 いつの間にか眠ってしまった一護の傍に、黒い服を着た少年が脇目もふらずにやってきた。
 日番谷冬獅郎。 死神だ。
 「全く、部屋にいないと思ったらこんな所で寝てやがって」
 こぼれたため息には、優しさが少しにじみ出ていた。




 緩やかに流れる時間の中。
 さらり、と風が二人の髪を撫でる。
 一護のとなりに座り込んだ冬獅郎は、その風に誘われて一護の髪に手を絡ませる。
 その行為に、一護が僅かに身を震わせた。そしてゆっくりと目を開く。
 「起こしたか?」
 「いや、……俺、いつから寝てたんだ?」
 寝起きのぼんやりとした目を軽く擦り、起きあがる。
 「知らねぇよ。俺が来たときには既に寝ていたからな、お前。疲れてんのか?」
 くすりと笑みを浮かべながら言われた言葉に、一護の意識は完全に覚醒した。最後の言葉は言外に結構長い間寝ていたと示される。
 「な、…っ…。お前、いつからそこに居たんだよ?」
 「そうだな、一時間ぐらい前か?」
 「起こせよな…」
 がっくりと肩を落とし、疲れたように声を絞り出す。
 「良いじゃねぇか。珍しいモン見せて貰ったぜ?」
 その言葉に、一護は下を向いて黙り込んだ。




 「ほら、機嫌直せって」
 何の反応も示さない一護に観念したように冬獅郎が声をかけ。
 背を軽くぽんぽん、と叩いた。
 瞬間、冬獅郎の視界は反転し。
 その目に映るのは悪戯するときの子供と同じような笑みを浮かべた一護と、いっそさわやかすぎるくらいの青空。
 たまに向こう岸から飛んでくるのか、それとも別の所から飛んできているのか判別のつかない桜の花びらが今は妙にうっとおしい。
 「…冬獅郎が俺の何時もと違うところを見たんなら、さ」
 楽しそうな笑みを浮かべ、冬獅郎の体をまたいで座り。
 「俺にだって冬獅郎のいつもと違う顔を見る権利ぐらいあるよな?」
 驚いたように軽く目を見張る冬獅郎を一護が見下ろす。
 しかし、その顔はすぐに消え。
 にぃ、とその体には不釣り合いな試すような微笑に変わる。
 「見れるモンなら見てみやがれ」
 言われると同時に一護の体は反転した。
 「な、」
 声を上げるのを無視し、唖然としている一護に冬獅郎は軽く口付けた。
 一護の眼が、驚きに見開かれる。
 「狡ぃ、ぞ」
 「なんとでも言え」
 狼狽える、一護。
 冬獅郎はもう一度くすりと笑むと一護の上から自分の体をどかし、草の生えた地面の上に座り直した。
 一護も勢いよく起きあがり、冬獅郎のとなりに足を伸ばして座る。
 「二人とも草だらけだ」
 零し、同時に笑った。
 「でも、こんな日も悪くねぇ」
 目を細めて笑い、そして二人は立ち上がった。
 「さて、そろそろ帰るか。冬獅郎も…来るか?」
 草むらを転げ回ったが為についた草や桜の花びらを払いながら一護は問う。
 冬獅郎が立ち上がったのを見ると一護は黒崎医院に向かって歩き出した。





 その後ろを、冬獅郎が追い一緒に歩いていったのは言うまでもなく。


                        2007.4.6〈了〉 



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初のBLEACH通常小説です。
…お題ばっかり書こうとするから…
制作したのは飛行機の中でした★(滅)しかも手書き。
友人に影響されて、ですよ。

取り合えず、桜の季節(であると思う、多分)にupするのが出来たんでまあもう言い訳はするまい…。



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