□鐘
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ゆき、が、ふった


「まじ綺麗」
「さむいですけどねィ」
「…」


庭をうめつくす圧倒的な白は、まあ、近藤さんのいうとおり綺麗だった


「まじ綺麗」
「つめたいですけどねィ」

つぶやく近藤さんとぼんやりする総悟の後ろ姿はまるで兄弟みたいだった


「白ってのは綺麗だな、うん」


なにが満足なのか深く頷く近藤さん、相変わらずぼんやりした総悟はちらりと俺をみる


「土方さんもすきなんですかィ、雪、人並みに」
「人並みにってなんだ」
「そのままの意味でさ」
「すきだよな、トシ」


振り向いた近藤さんと目があう、この人がすきなものならばすきなのだろう、つまり俺は雪をすきなのだろう


「でも寒いな」


いうと近藤さんが笑った

「総悟と同じじゃないか」
「真似しないでくだせェ」
「うるせ」


煙草の煙は雪と比べて灰色、色が混ざる
廊下の柱に寄りかかりながら近藤さんと総悟の後ろ姿、俺はたぶん、今しあわせだった


「もう少しじゃない?」


うきうきとした肩、にこにこした近藤さん


「聞こえた」


総悟が感情こめずにいう、俺にもきこえた、煩悩の数だけ響く音


「煩悩多すぎね?人間て」
「除夜の鐘て何発なるんでしたっけ」
「わすれた、でもいっぱいだよ」
「なんでィ、忘れたんですかィ」
「数えてみる?」
「めんどくせェや」


二人のやり取りをみて笑う、相変わらずで、何もかわらない


「俺こんなに煩悩ないぞ」

鐘の音を指折り数えながら近藤さんがいう


「きづかないだけじゃないですかィ、もっとも俺だってこんなにないですけどねィ」


二人の顔が一斉に俺をむく

「煩悩だらけなのはこのひとでさ」
「そんなことないさ、なあ、トシ」
「正月からころされてェのかこら」


いってはみたけれど腹はたたなかった、笑いながらフィルターを噛む、煩悩結構、あったほうがいいのだ、毎年こうして約束もしていない三人がそろって鐘をきく機会があるならば、煩悩万歳、人間万歳だ


「まじさむくね」
「そうかあ?」
「近藤さんは体温が高いから」
「そうかあ?」
「そろそろ戻りますかィ、連中がまってますぜ」
「んーまだ数えてるんだけど」


あれ、といいながら手を開いたりとじたり


「わかんなくなっちゃっただろー」
「来年数えてみればいいんでさ、来年」
「そうお?」


来年、か
また、こうして三人で鐘の音きければいい、またでけえ戦とか、テロだとかがあるかもしれない、明日はわからない、しぬかいきるか、二択しか選ぶことができなくなるかもしれない、でも


「いくかあトシ」
「なにぼんやりしてんでさ」


こうして、来年も


「ああ」


再来年もそのあとも、煩悩の数だけの鐘の音を三人で



あけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします。

 

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