□愚
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なんでこのひとは俺のことすきになんねんだろ


ぼんやりと思う、俺がこんなにすきなのに、すきなのになんでだろ

それは素朴な疑問だった、あくまでも素朴な
だから別に答えがほしいわけではなかったし、別にどうしたいとも思わない


「みてこれ」


年賀状の整理をしてる近藤さん、着物きてる近藤さん、伏し目になってまつ毛ゆれる近藤さん


「こいつ去年こども産まれたもんなあ」


みてるのはよくあるあれ、てめえのとこのこどもの写真があって今年もよろしくお願いしますとかかいてある年賀状


「いいねえ」


なにがいいんだか


「トシとか意外と子煩悩な親になりそうーうふふ」
「…」


なんねえよ


「いつかはちょうだいね、こういう年賀状」
「つくるわけねえだろ」


こどもなんて、そんな年賀状なんて


「いいじゃない、俺うれしくて泣いちゃうかも」


なんて残酷なひとなんだろう、俺はこんなに残酷なひとをみたことがない


「自分の心配しろよ」
「いえてる」
「年功序列でまずあんただ」


いってて胃の下あたりがきりきりした


「まあね、でもさ、やっぱり遅かれ早かれトシや隊士が結婚してこどもうんで、それが一番幸せかなあ」


俺はアンタをそういうかたちで幸せにすることさえできない、できないのか、あやまってもあやまりきれない


「近藤さんこどもほしい」
「えー?まあ、いつかは」
「いつかはいつだよ」
「予定ないです」
「産んでやろうか」
「トシが」
「ああ」
「トシが、こどもを」
「そうだ」


次の瞬間近藤さんは部屋に響き渡るくらいの大声で笑った、あはは、とか、トシがお母さんで俺がお父さん、とか、初笑いだ、だとかいいながらひいひいいって、俺も笑った、笑った、本当は泣きたかった、泣きたかったよ近藤さん


「あー面白かった」
「そうか、そりゃあよかった」
「トシがお母さんか、いいね、かかあ天下だ」


煙草をとりだす


「お母さんのくせに煙草すうんじゃありません」
「かたいこというなよお父さん」


なんでだろ、なんでこのひとは俺のことすきになんねんだろ、ああそうか、俺、男だったや


「お父さん、今年もよろしく」
「うける」



あんたがあまりに残酷で、俺はあまりに愚か
だからたぶん、俺が女だったとしてもこのひとは俺の旦那にはなってくれないだろう







正月そうそうむくわれなすぎます。かいたひとの人格をうたがう(あんただよ)。今年もむくわれないひじき。

 

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