□冬
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渡り廊下で近藤さんをみた



上級生と歩く近藤さん、近藤さんにとってはそいつらは同級生なんだろうけど俺にとっては上級生で壁があって、それはちょっとかなしかった


「トシだ」


俺の視線にきづいたんだろう近藤さんはにこにこ笑いながらちかづいてくる


「先いってて」


同級生だろう奴らにひとこえかけてから俺をみる、俺は小さい声で、こんちは、という


「声ちっさ!」
「あんたがでけえんだよ」
「そうかあ?」


廊下にひびく声、この人はほんとに声でけえ


「部活ももうすぐ終わりだな」
「…」
「卒業とかまだしんじらんない」


胃のあたりがつん、とした、卒業、卒業、そうだよな、いなくなんだよな、この人


「さびしいでしょ」
「べつに」
「つめてえなあ、俺はトシとかそーごにあえなくなんの、さびしいなあ」


ここで俺はしぬほどさびしくてくるいそうだっていったら、近藤さんはなんていうだろう、この人と同じスピードで生きていけたら、あっちで馬鹿みてえに笑う近藤さんの同級生になれたら、同じスピードで、同じ


「最後まで部活でてよ」


なんでこんな苦しいかっていったらすきだからだったなんでこんな悲しいかっていったらすきだからだった
この人にキスしたのは夏、この人はなんにもかわらなくて俺は悲しかった、男にキスとかされてなんかいうことないのか、きもい、とか、もうあわない、とか理由を聞くだとか


「はいはい教室はいりなさいねー」


銀八の声で我にかえる、こんな奴の声で我にかえるなんてむかつく


「おっ、近藤」
「こんちはー銀八せんせ」
「お前、推薦だって」


推薦?



「俺まじラッキーですよ」
「警察になりたいってまじか」


警察?



「はあ、一応…」
「お前が警察ねえ」




俺のしらない近藤さんなんて近藤さんじゃなかった、いらない、いらなかった


「あほづら」



横むくとそーごの顔


「面、つけないんですかィ」
「あ、あ」


ゆっくりと面をつけ紐をおもいきり縛る、顔がしめつけられて窮屈で心地いい、銀色の檻のむこうに近藤さんがみえた


「もうあの姿もみれなくなる」


そーごが近藤さんみながらつぶやいた、さびしいねィ、とつけたして
こいつがさびしいとかいうなんて、こいつでさえいえることを俺はいえない、みんなが普通にできることを俺はできなかった

当たり前のことがなんでできないか、いえないかっていったらすきだからで、すきというものはこれ以上になく厄介でいらないもので苦しいのはつらいし本当にいやで、でも


「次、トシ」


竹刀をもって正面にたつ、一礼をしてゆっくり竹刀をあわせる、竹刀の先端はふるえて面のなかで近藤さんが不思議そうな顔をしてた

「はじめっ」


俺はくるったみたく近藤さんにぶつかって胴がぶつかる音、がちり、と面がぶつかった、近藤さんの目をもうみれなくなってた




「おおい」


振り返ると袴のままの近藤さんがいた


「具合わるいの?」
「は」
「顔色がわるいぞ」
「はあ」
「たばこばっかりすってんじゃな、」


あわてたように両手で口をふさぐ
俺の脳裏に近藤さんちの床にできた、こげが浮かんだ

「あれ、すいませんでした」


いうと両手で口をおさえたまんまぶんぶん、と首をふる近藤さん、いうなってことか


「床、だいじょぶでしたか」


ぶんぶん、と首ふる、今度は上下に


「きもくてすいませんね」

両手が口からゆっくりはなれていく、相変わらず俺はこの人の顔をみることができなくて


「いいんだ、たいしたことない」
「そうですか」
「…」
「…」



だからいやなんだ、めんどくせえ、この人に嫌われるなんてごめんだ、なんかいってくれ、なんでもいいんだ、聞いてくれ、あれはなんだったんだって、そうしたら俺はこの意味のわからないつらい想いからにげだせる、あんたしかいねえんだ、もう頼むから逃してくれ


「みにきますか」
「なにを」
「トシがこがした床を」



思わず顔をあげると次は近藤さんが下みてた






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