□偽
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おれはなにがしたいんだろう



笑うのは楽しいから
仲間がいて 信頼できる奴がいて 生きてる事が嬉しいから笑う

生きてる事が嬉しいのに俺は人を斬る
なんのため
江戸のため

俺が斬った人だって 仲間がいて 信頼できる奴がいて 生きてる事が嬉しいと毎日笑っていたかもしれないのに


それならば最初から優しくするなと言われた事があった
俺は出来るだけ隊士一人一人の事をしりたいと思っている 思っているから元気のないやつがいれば声をかけるし 悩みがあるといわれれば聞く
でもそれでも俺は馬鹿だから忙しかったり呼出しだったりで話を聞けないときもある

そいつは以前俺に隊士を辞めたいと相談してきた奴で俺は本気で話しを聞いた
結局もう少し続けてみると話が落ち着いた

何日か経ったある日その隊士に話があると言われたけれど上から呼出しがかかっていた上連日の攘夷浪士のテロで疲れていた俺は あとにしてくれ と返した 多分 すごく つめたい顔で



疲れきって屯所へ戻っくると部屋の前にその隊士がいた


『きょくちょう』
『ごめん 明日でもいいかな』

『あんたは最低だ』
『え』

『優しくされると信頼してしまうんだ 優しくするなら 話を聞いてくれるなら 最後まで責任をとれ でなければ優しくなんかするな話なんか聞くな 結局おまえは』


ぎぜんしゃだ


まあその通りだった
結局隊士全員の事を知ったり助けたりそんな事は無理なんだ だって手をさしのべて信頼させてこんなこと


でもおまえはひとりで立とうとした?



俺は次の日も笑ってた
仲間がいて 信頼できる奴がいて 生きてる事が嬉しいから笑ってた

その隊士は呆れてた
でも俺は笑ってた


でかい戦の前のときも笑ってる
いつも

泣くより笑う方がいい 多分 きっと


暫く後
『すいませんでした』

俺は親をひとりじめしたい駄々っ子のような事を言ってました と隊士は言った
何を謝るの お前を蔑ろにした偽善者の俺になんて謝るな と言うと
すいませんでしたと泣きながら言われた

俺は偽善者かもしれない だけど


『駄々っ子 結構 俺はお前に一瞬でも親だと思われた事を誇りに思うよ』


本当だった

本当に思ってた
本当に俺はこいつの悩みを聞きたいと思っていたし出来る事なら救いたいとも思っている
本当に


でも俺は馬鹿だし怠慢だしめんどくさがりだから
偽善者

言われても仕方ない


おれはなにがしたいのだろう
人を斬る俺は偽善者なのか辛い時に笑う事は偽善なのか






「近藤さんは偽善者なんかじゃねえだろ あんたはそんな何かを偽れるほど器用じゃない」

酔っ払った俺はいつの間にかトシの部屋で長い独り言を言っていたらしい
瞼が重くて目があかなくて でも遠くでトシの声


「その隊士だって今じゃあ立派に育ったじゃねーか」
ああそうだ あいつは残ってくれた


「あんたは思うように生きればいい ついてこねえ奴ははなからついてこねえ そういうもんなんだ 決まってんだ 全て最初から」

そうかなあやっぱり神様みたいな人が運命をきめてるのかなあ


「だからこうやってべろべろになるまで酒を飲まないと悩みも言えないのはやめろ あんたが壊れるぞ」


トシの優しくて優しくない言葉を聞いて俺は笑った
本日最後の笑顔


俺は明日も笑う 自分のために

20070724                     こんどうさんはぐちれる機会がなさそうなうえに自分でそれがぐちだときづかなそう

 

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