□夏 
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なつ だった




窓際の俺の席は太陽の熱であつい おもいっくそあつい 机から湯気がでそう
うんざりしながらぼんやり校庭のほうをみるとどっかのクラスがプール授業らしくて耳をすますと声と水の音、がきこえたりした
しかしあつい


「サイダーのCMみてえ」
ぼそりと銀八がいう テスト中なんですけど
「夏だなー青春だなー畜生」
まだいうか
でけえ独り言
校庭をぼんやりみてたら聞き覚えのあるでかい声
ああ近藤さんだ はしゃいでるああ近藤さんだ びしょぬれになって笑ってる


なつ だなあ


「よお」
校庭からみた近藤さんがめのまえにいた
「なにのんでんの」
「あ、」
昼休みは一階のロビーでクラスのやつら(総悟とか)とぐだぐだすることに決めていた なんぼか涼しいから

「コーヒー」
「そっか」

太陽みたいな笑顔

「近藤さん今日練習何時までですかィ」

俺と総悟は剣道部でそれの主将は近藤さんだった
いまどき剣道部とクラスのやつらはいう、けど俺も総悟もきにしない 近藤さんはもっときにしない
剣道部は近藤さんがつくった
入学して間もなく部活紹介なんてのがありそれで初めて近藤さんをみた
へんてこな紹介、緊張がこちらにまで伝わってきそうな挨拶、へたくそなポスター、鮮やかな剣さばき

俺はうまれてはじめて男にひとめぼれした


「トシもでるでしょ、今日」
「、ああ」
「そっか」

近藤さんは多分俺のあつかいに困るときがあると思う、俺は笑わないし聞かれたことしか応えないしかわいくない後輩だから
でもどういうわけか必ず俺に一番に話し掛ける例えば今みたく
俺はそれがたまらなく嬉しい

「じゃーね」

笑顔を残して歩いてく
ズボンをふくらはぎまでまくってうすいシャツから透ける筋肉 はだしにくたびれた上履きをぺたぺたいわせながら
ひとめぼれは俺のなかで恋みたくなったけれど中学のときつきあってた女にもってた気持ちとはだいぶちがった
一時期俺はくるいそうになった だって、俺はほもだったってことだ テレビで何回もみたことがある 雑誌でもある でも結局それはテレビの中の出来事で雑誌の中の出来事で、まさか、嘘だ俺が
毎日なきそうになった自分が気持ち悪かったし
でも稽古は休まなかった近藤さんにあえるから
俺は自分をうらみ近藤さんをうらみ近藤さんのクラスの奴らをうらみ世界をうらんだ、して、考えるのをやめた
めんどくせえ、近藤さんにあえればいいや


「トシは筋がいいなあ」
近藤さんの口癖 この言葉で俺は毎日いきていける
剣道部員はわずかな人数で団体戦にでるのにぎりぎりの人数
そのなかでも毎日稽古に出るのは近藤さんと俺と総悟だけだった

「総悟は相変わらず強いし主将として鼻がたかいな俺」

それはよかった この人が喜んでくれたら嬉しい

「そろそろかえろっか」

面をはずし胴をはずしたれをはずす 袴のまま顔を洗う今日も学校がおわった また明日まで近藤さんにあえない
水をぽたぽたたらしながら右手でタオルをさがす、と誰かの身体に手がふれた
顔をごしごしやって片目をあけると太陽の笑顔、近藤さん

「はい」

さしだされたタオル

「ありがとう…ございます」
「敬語!」

おどける近藤さん、俺は聞かれたことにしか応えないから敬語をあまりつかわない

「トシの敬語!」
「、なんだよ…」
「俺先輩ぽい!」
「だってそうだろ」

うふふ、と笑うから俺も笑う

「トシの笑顔!」

この人はくすぐったい
俺も生まれ変わるならこういう人になりたい、嘘、女に生まれ変わってすきだっていいたい …俺の女版はひどそうだがそれはおいといて


「テスト期間中なんに昨日剣道部体育館つかったらしいじゃねーか」
「はあ、すんません」
「かー青春ですこと。いーよ上手くいっといたからあの主将…」
「近藤さん」
「そうそれ、近藤にもいっとけよ今日はダメだかんね」


いいやつじゃねえか銀八め
でもそれじゃあ今日は稽古できねえから近藤さんに、あえない
寂しい あいたい 寂しいなあ



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