□奪
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「おれ、近藤さんのことすきなんでさァ」

言うと土方の顔が曇った。なんてわかりやすい男なんだろう、鬼の副長が聞いて呆れる、とはこのこと
おもしろいと思ってまじまじと土方の顔を見る、あまりにも困った顔しててかわいそう、だけどおもしろい。

「すきって、」
「すきはすき、でさァ」
「つまり」
「やりてぇとか、いえばわかりやすいですかィ」

本当、おもしろい顔。俺はますます楽しくなる、この人はどれくらい近藤さんのことすきなんだろう。俺が近藤さんのことすきな気持ちと、こいつが近藤さんすきな気持ち、どっちがでかいかな。そんなことどうでもいいけど、こいつが俺よりもでかい気持ちをもっていたとしても、関係ない、俺には。だって近藤さんは俺のだから。

土方は口をひらいた、けど言葉は声にならないみたいでまた閉じる。
かわいそうな土方、でもおまえになんてあげない。いつもいつもいつも後からきて、大事なものを、人を、俺んだ、俺んだ、絶対やらない、近藤さんは俺んだ

「やりてぇって、おま」

こちらを少しもみない、煙草をとりだす手が震えてる、かわいそう、みてられない

「俺ァてっきり土方さんも近藤さんのことすきなのかと思ってましたぜィ」
「すきって、」
「アンタも近藤さんとやりてェと思ってたんじゃねェかなと」
「やりてぇなんて」

俺はしってた、土方が近藤さんと寝たことあるの
俺はしってた、土方は近藤さんのことがすき
俺はしってた、近藤さんは気持ちもないのに人を抱く人ではない
俺はしってた、二人のこと、全部、しらないわけがないのだ、だって

「歳のせいだとしたら俺は神様を恨む」

土方が初めてこちらを向く

「お前は後から道場に入ってきたにも関わらず近藤さんに筋がいいと認められて、お前は後から道場に入ってきたにも関わらず副長になって、後から入ってきたのに近藤さんに抱かれる、俺がお前と同じ歳だったとしたら近藤さんはどちらを選んだと思いますかィ」
「おまえ、」

よこどりした、こいつは近藤さんを、俺からとった

「俺んだ俺んだ俺んだ」
「落ち着け、お前、なにを」

いつもなら避けるくせに土方は俺のこぶしを頬で受け止める
何回も、何回も、なぐった、なぐったけど不思議と力がはいんなくてだから痛くなかったと思う

「俺んだ俺んだ返せばか、返せ、近藤さんを、お前は、なんてこと、」
「お前、勘違いしてねぇか」
「俺んだ俺んだ」
「近藤さんが俺のことすきなわけねぇだろ」
「俺のほうがしってる、あの人のこと、あの人はすきでもない奴なんてだかねェ」
「でも情にあついお人よしだ」

なぐるのやめて、土方をみたら俺よりも悲しそうだった

「そうでさ、お人よしでさァ・・・・・・」
「意味わかるか」

わかりたくもない
わかりたくもないのだ

「近藤さんは、お、れのなんでさァ、」
「・・・・・・・・」

もうなにもいえなかったし、土方の顔みて、おもしろいなんて少しも思わなかった。おもしろくなんかなかった、始めから。




「近藤さん」
「んー」

局長室には近藤さん。書類の整理してるのか大きな背中しかみえない

「こっちみて、くだせェ」
「どうした、なんかあったか」
「みて」

ぱた、と筆を置き、首だけじゃなく身体ごとこちらを向く近藤さん、馬鹿みたいに真面目

「どうした」

襖に寄りかかりながら近藤さんの顔を見る、まじまじと。
俺は人の顔を見るのがすき、遠慮なんてしない、近藤さんの顔みるのはとくにすき

「総悟?」

俺の名前呼ぶその唇の動きも、すき、なんというか近藤さんの身体をつくっているすべてがすきだった、肉から血さえも

「昔の話をしてくだせェ」
「昔ってどれくらい」

聞き流せばいいのに、こんなわがままな俺の言うことなんて

「出会ったときの、話」
「俺と総悟が?」
「俺を初めてみたとき、近藤さんはどう思ったか、の話でさァ」
「どう思ったか?」

うむむ、と唸り目を閉じる、ほっとけばいいのに俺なんて、本当に馬鹿な人

「絵、かいてたよね、砂に」
「そうでしたかィ」

正直、俺のほうが覚えていないと思う。なんせ小さかったのだ、幸せで不幸なあの頃はもう過去の闇のなか

「上手だった」
「絵の話じゃねェ、俺の話」
「うん、そうだな、かわいくてびっくりしたかな」
「かわいい」
「そう、綺麗な子だなって」
「あとは?」
「おいおいー勘弁してよなんか照れる」

目を細めて俺の頭撫でる手

「今も思いますかィ」
「え」
「かわいいと、綺麗だと」
「そうだな、総悟はかわいいし綺麗だよ」

かわいい、綺麗、いらないそんなの
迷惑をかけたい、この人困らせたい、俺のせいで悩めばいい、

「それだけですかィ」
「それだけじゃぁないさ、総悟は、いい子だよ」
「俺、街中でバズーカうちますぜィ、それでもいい子?」
「まあ困るけどね、それはね、でもいい子」
「土方さんと喧嘩ばっかりしやすぜィ、それでも?」
「総悟はいい子だ」

泣きたくなってきた

「近藤さんの悪口いいますぜィ、見回りさぼりますぜィ、」
「いい子だよ」
「近藤さんのこと好きですぜィ」

言うと抱きしめられた

「いいこいいこ」

泣きたかった、泣けなかった、むかついた、殴りたかった、誰を、自分を
近藤さんは俺を抱きしめて「いいこいいこ」と繰り返す、その声は振動になって俺の頬を震わせてまた泣きたくなる、しってたの、近藤さん、俺はあなたがだいすきだよ、怒らないの、困らないの、安心したけれど同じくらい寂しい、この気持ちはどうすればいいの、近藤さん

土方がどうだとか、俺がどうだとか、どっちが、とか、いらないみたい
かわいそうな土方、かわいそうな俺、一番かわいそうな近藤さん、部下がこんなんで大変だろうな、でもやっぱりすきだな、俺んじゃなくてもいいかな、やっぱりやだな、俺んになんないかな

近藤さんのにおい、懐かしいにおい、俺の頭はぐしゃぐしゃになって近藤さんの表情は最後までみれなかった




おわり

そうごが近藤さんのことすきなお話しちゃんとかいたのはじめてでした
20070926

 

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