□涙
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顔面が腫れて傷だらけでぼろぼろになった着物


「ころんだ」


笑顔


それから近藤は帰ってきたり帰ってこなかったりたまに帰ってきたと思えば傷だらけで何を聞いても ころんだ しか言わない


「あいつなんなんだ気味悪い」
「近藤さんの事気味悪いとか言うな土方この野郎」
「ころんであんなんなるか普通」
「…きっと…なんか、俺達のためになんかしてるんでイ」
「あいつが」
「お前は近藤さんのこと、なんもわかってねェ」
「そうかよ」
「俺はなんもできねェ」
「なにしてんのか聞けばいいじゃねーか」


凄い目で睨まれる


「あの人が教えてくれるわけがねえだろィ」


俺は早く大人になりたい、と言い総悟は外へ出て行った



何日、刀を触っていないだろう
掌は段々柔らかくなるあんなに堅かったのに

俺は今本当にする事もないしただ飯を食うのも何なのでこの道場を出ようかと思っている

道場のまわりを宛もなく歩き裏山のほうへまわると何処からかいびきが聞こえて来た

「…誰だ」

耳をすますとそれは物置から
ゆっくりと戸に手をかけて一気に開く



「こ、れ」




見えたのは
刀の山の中眠る近藤


「俺んだ」


懐かしい重さ
ずしりとした感触
傷だらけの近藤


「ん」
いびきが途切れきょろきょろと辺りを見回しその視線は俺に落ち着く


「みつかっちゃった」
「なんだこれ」
「驚かそうと思ったのに」「これはなんだ」
「取り返してきた」


真顔


「ば、かじゃねーの、馬鹿じゃ」
「でもうれしいだろ」


笑顔


一人で
たった、一人で
中には道場を出てった奴のものも逝った奴のものもあった
道場を出ていった奴を止めようともせず 刀で抵抗する事もせず 何を聞いてもころんだとしか言わず 俺に馬鹿にされてそれでも



外へ出て戸を背に立つ

「ちょ、トシ!?あけてっちょっと!」

「少し待て」


涙がでたからとまるまで


「変なトシ…」

涙が溢れて声が出そうで

俺は、こいつの何をみてたのかなあ

「そのうちさ、腰に刀さして大手を降って歩けるようにするから、俺が」

ありがとう

「今はちょっと無理だけど」

ありがとうありがとう


「それまで、一緒にいて?」



ありがとうありがとうありがとう


言えたら 言えたらいい
いつか、言えたらいい
世の中に感謝の気持ちを表す言葉がもっとあったらいい

なんべんでも、何百回でも、声が枯れたって、言い続けるから


「ああ、いてやるよ、近藤さん」






うれしくてくやしくてせつなくておれはないた



おわり
20070709

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