□幻
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祭は華やかで気持ちは益々浮き立つ、そして自分に呆れた、期待しているのだ俺は、会えるんじゃないかって
馬鹿げた話、もし俺が高杉に会ってしまったらあいつは終わりなのに、あいつを捕まえることさえできないのだったら局長なんて呼ばれる資格が、ない
資格がないどころではないのだ


「近藤さんはこっち」
「あ、ああ」


副長の後ろにのこのこついていく局長、はたからみればおかしいだろう、とても

「変だぞ」
「なにが?」
「明らかに変だろアンタ、なんかあんのかよ高杉に」
「あるわけないよ」
「…」


出来るだけなんでもないように聞いてくれたトシと出来るだけなんでもないように応えた俺の言葉が行き場所をなくしてふわふわさ迷ってそれは、多分トシの中ではじけた

響く祭囃子、屋台からのにおい、懐かしくて、寂しくて、


「今日は舞台にあのじいさんがでるらしいですね」


声がした方をみると、山崎が立っていた


「じいさん?」
「名前なんだったっけかな、えーと」
「おい、タコ焼き買ってこい」


トシが割って入る


「えーなんでっすかー」
「お上からの命令だ」


文句をいいながらひとごみにまぎれていく山崎の後ろ姿をぼんやりみる
あのひとごみに、きっと


爆音が夜空に響きわたる





「花火…」
この空の下におまえは


「思いだした。平賀源外だ、あのじいさん」


山崎の声、ステージに目をやるとカラクリらしきものと老人が立っていた







「様子がおかしいな」


ステージを見守るトシ、言い終わらないうちに源外の隣にいたカラクリがこちらにバズーカを向ける


「!!」


カラクリのバズーカからは煙幕


「あのじいさん、何者だ」


「将軍を護れ!」


予想外の行動に出たカラクリと源外、会場に広がる煙幕、賑わしかった人々が一気に散る、なにがおこった?


「ちくしょ、やられた、なんだあのじじい…」
「…な」

祭の場はいっぺんに混乱へ、歓声は悲鳴に
源外のカラクリ達が暴れだす、隊士達はたたかう、俺は、俺は


煙幕の、煙の間、わずかなすき間、ぼんやりと、確かに確かに俺はみた



見間違うはずが、ないのだ


「たかすぎ?」


手、が動かない
声、がでない
しらせなければ、高杉が、高杉が

高杉は俺見て笑った、しってたのだ、俺が真選組の局長になったってあいつは、しってたんだ


「な、んで」
「ぼおっとすんな!」


トシの声で我にかえると目の前にカラクリの群れ、慌て体制を整えると刀が折れた。俺の、信念みたく。

高杉はもういない


「幻、か…?」
「斬っても斬ってもわいてでやがるキリがねーぜ」


トシが俺を庇いつつカラクリを斬る、総悟も、隊士達が、何処からきたのか万事屋の娘まで、斬る、斬る、俺はその場から走り出した


「近藤さん!?」


トシの声、いや、幻聴かもしれない、さっきのも幻かもしれない、そうだすべて幻なのだ、いつも高杉はそうだった、幻みたくあらわれて幻みたく消えてった、幻でもいい、幻でいいから


「久しぶり」


後ろから、声


「…たかすぎ?」
「振り返るな」
「おま、なんで、おまえ」
「立派になっちゃって」
「この騒ぎはお前が」
「誰もいない芋道場にいた野良侍が真選組局長とは」


煙管のにおい、俺はくらくらして倒れそう、思い出に飲み込まれてしまう、煙幕があってよかった、なかったらきっと


「高杉、」
「あれから男と寝た?」
「、…」
「俺とやるのとどっちが気持ちよかった?」


記憶と、身体が、どくりとする。
瞬間、尻を思いきりつかまれた


「や、め」
「誰もみてないよ、みんな逃げるのに精一杯だから…ククッ…自分のことしか考えてねえんだ」
「おまえ、どうして、こんなことしてるんだ、こんなことするためにおまえは」
「あいたかったよ、近藤」

高杉に抱かれた記憶、あの頃の記憶、武州の記憶、誰もいない芋道場にいたころに怪我だらけで突然あらわれた志士

「高杉、戦争は終わったんだよ、なのになんでこんなこと」
「暴れればアンタにあえると思って」
「…」
「嘘」


みんな高杉に気付かない、俺にも気付かない、高杉の手は移動して、俺の身体がはねて、すごく悲しくなる

「つかまえなくていいの、局長さん」


耳、に高杉の歯の感触
泣きそうになる、つかまえなきゃ、こいつを、つかまえるんだ


「振り返るぞ」
「相変わらず律義な奴、勝手にすればいい」

まるで永遠みたく時間をかけて振り返る

高杉の顔

ああ高杉だ、ああ幻じゃない、高杉だ、懐かしくて懐かしくて懐かしくて腹の真ん中あたりが熱をもつ


「俺が今逃げても、お前は俺を追う」
「…」
「また、会える」
「…」
「俺にはそれが嬉しいよ」

唇が重なる
思いきり噛まれた、血がでたと思う、痛い、いつもそうだった、痛いのだ、高杉は嬉しそうに痛がる俺をみてた嫌ではなかった、と思う。
痛いのは腹の真ん中あたりだけだったのだ、実際。
痛いくらい純粋で、壊れてしまいそうなのは、痛そうなのは、
いつも高杉のほうだった


「追い掛けて、さがして、俺を。永遠に。一瞬も忘れんな、お前は俺を忘れることなんてできねえんだ…ククッ…素晴らしいことだと思わねえか…」
「つかまえる、今、お前をつかまえる」
「できねえよ」
「つかまえる」
「近藤、俺、誰でもよかったわけじゃないよ」
「…」
「お前は」
「つかまえる」
「…またな」


でかい煙幕


耳に喧騒が返ってくる


高杉はもう、いなかった




「近藤さん!」
「トシ」
「アンタ刀もねえのになにやってんだ」
「うん…」
「どうした、それ」
「え」
「唇、血ぃでてる」


唇に触れると指に血がついた
幻なんかじゃなかった夢なんかじゃなかった証拠


「トシ、俺、絶対高杉つかまえる」
「?…ん、ああ」
「絶対つかまえる」



煙幕はもう消えていた






おわり

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