短編2

□壊れたレコードが鳴りやまない
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彼は静かに泣いた。
まるでこの世が終わってしまう夜みたいに、切なく。






「日番谷くん…?」






塾の帰りに日番谷くんを見かけ、後をついていくと(悪いと思いながら)着いたのは小さな墓地だった。







日番谷くんは有名だった。
綺麗な銀髪に整った顔、目立つ容姿にクールな性格。
モテない筈がなかった。
かくゆう私も日番谷くんに恋する女の子の一人だけれど。
大学で擦れ違う度にどきどきして。
だけど日番谷くんの噂は誰もが知っていた。
浪人なんてする筈がないくらいに頭がいい日番谷くんが二十歳になってわざわざ大学に入学した理由。
友達も作らずにひたすら医学について学んでいる理由。








日番谷くんはさっきから少しも動くことなく一つのお墓の前にたちつくしていた。
うつむく瞳は死んでるようで。
その表情でそのお墓が誰のものなのかがわかる。
同時に、やっぱりあの噂は本当だったんだ、って。










‐日番谷くんって結婚してたらしいよ。








「日、番谷くん…」







‐でもその人は








振り向いた日番谷くんは涙を拭うこともせず、ゆっくりと振り返った。
その姿は普段私が大学で見ている日番谷くんとは掛け離れていて。
彼は私のことを知らないだろうけど、私はずっと見てきたから、何となくわかる。
きっと今の日番谷くんが本当の日番谷くんなんだ。(確証はないけど)







「……」






私にむけられていた瞳は一瞬でお墓にもどされた。
日番谷くんは何も言わなかった、聞かなかった。
私が誰だとか、どうしてここにいるのかとか。
多分それは私のことを知ってるからじゃなく、多分興味がないだけなんだろう。







「…このお墓って、もしかして」






聞いてはいけないことだとはわかってた。
だけど、だけど知りたかった、日番谷くんのことが。







「…俺の」






「俺の、大切な人」






ぽつり、と遠い瞳をしながらそう一言だけ言った日番谷くんはやっぱり私の方を見はしなかった。
それほど日番谷くんにとってこのお墓の人はかけがえのない人だったんだろう。
胸がしめつけられる。
名前も何も知らないけれど、その人がたまらなく羨ましくなった。
世界でたった一人だけ日番谷くんに愛された人。






日番谷くんの奥さん(だった人)は身体が弱かったって聞いた。
病気で1年前に亡くなったと。
だから日番谷くんは医学について必死に勉強しているんだって。
最初はただの噂だと思った。
だって日番谷くんはまだ二十歳だし、それに私には他人を嫌う彼がそんな過去を持っているなんて考えられなかった。



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