捧げと頂きの恋歌

□囚われ王子が姫を捕らえた
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私はこの物語を読むとき、いつも思う。白雪姫は本当に毒林檎を食べたのか、と。もしかしたら、食べた振りをしていたのかもしれない。そして、王子が来ることも把握していたのかも。

私たち鬼兵隊に侵入者が現れた、と報告があった。それもたった1人で乗り込んできたらしい。馬鹿な奴。その人物に身元を吐かせるべく、私はその部屋へと向かっている。小物1人に高杉様のお手を煩わせる必要はないだろう。地下へと続く階段を下りながら、そんなことを考えた。見張りをしていた者に去るように命じると、数時間たったらまた来ます、と言い上に上がっていった。その後姿を見送った後、私は懐から鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。手首をひねると、ガチャ、と重苦しい音が響いた。ギギギギと不気味な音をたてながら、扉をゆっくりと手前に引く。その隙間から滑り込むように中に入ると、近くの机に蝋燭を置き扉を閉めた。かび臭い臭いが鼻を突く。蝋燭の日をランプに移すと、先ほどよりも部屋の中が明るくなった。

「この部屋はお気に召しまして?王子様。」

「…随分と元気そうじゃねーかィ。」

そう、そこに居たのは真選組の切り込み隊長、沖田総悟。ところどころに切り傷や打撲があるところから、かなり抵抗したんだとと感じられる。彼は愉快そうに口端を吊り上げて笑った。つられて私も微笑む。そっと彼に近づいて、目線を彼に合わせる。すると、ゆっくりと私の頬に手が伸びてきた。そのまま、ゆっくりと彼の顔が近づいてくる。抵抗はしなかった。そもそもする意味なんてない。唇に温かいものが触れる。そしてそれはそっと、離れていった。その一瞬が、私には何十分もの出来事に感じた。

「こんなとこまで来るなんて物好きな人ね。私はもう、あそこには帰れないのに。」

「よく言うぜィ。ま、俺ァあんたみないな奴嫌いじゃありやせんぜ。むしろ丁度いいぐらいでさァ。」

私は思わず笑みを零した。勿論、歪んだ笑みだけれど。私に綺麗な笑みは似合わないわ。こんなに早く見つかっちゃうなんて、つまんないの。次は隠れんぼにしようかしら。さ、楽しい時間はもうおしまい。今度は私が貴方を楽しませる番ね、





囚われ王子が姫を捕らえた


白雪姫は死んでいた。やはり毒林檎を食していたのだ。それでも物語は終わらない。王子は見つけたのだ。森にただずむ、毒林檎を持つ少女を。少女は笑った。

(純粋な白雪姫が、真っ黒な王子様を楽しませられる訳がないじゃない)


「嘘」に捧ぐ企画夢!
素敵な企画ありがとうございました!by紫音

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