銀八連載

□らららあいをうたおう
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卒業前、ということで、学校ではカップルがかなり減った。未だに続いてるのは同じ高校へ行く奴等ぐらいだ。やっぱり行き先が違うというというのは大きな壁なのかもしれない。遠距離恋愛だなんてロマンチックだと思えるかもしれないけど、実際は違うと思う。相手が自分から離れていっちゃうんじゃないかって思って、不安で堪らなくて、信じることが怖くなって、自分から突き放してしまう。無意識に自分が傷つかないために、と思っている。それが逆に自分を傷つけてるとは知らずに。人間は、弱い。



いよいよ卒業までのラストスパートが始まった。気持ちの整理がついたあたしも今では卒業という日に向かって走ってる。でもいまいち実感はない。それはあたしだけではないようで、みんなもいつもと変わらず、くだらない事で笑いあっている。でも、気付かないうちに実感させられていることには誰も気付かない。初めはふざけまくってた予行も、今ではみんな真剣な顔で前を見据えている。1年の頃はあんなに弱々しかった歌声だって、今では体育館に響き渡るぐらい大きくなった。教室からはみんなの荷物が消えて、壁に張ってあったみんなで書いた今年の目標(もちろん受験合格)もべりっと剥がされて、すっかり寂しくなった。もう使うことはないだろう美術室、技術室、音楽室、理科室などなど。ほんとにあたしたちは、ここから消えてしまうんだ。

「私ね、沖田先輩のボタン貰おうかと思うんだーっ!」「まじで!?勇気あるーっ!」

そんな下級生の会話も聞こえてきた(沖田に話したらすっごい嫌そうに顔を歪められた)あーあ、あたしも銀八せんせーのボタンほしーなコノヤロー。なんて口が裂けても言えない。いや、だって恥ずかしいじゃないか。でも下級生にボタンを取られている先生を想像すると少しだけ、いやかなりむかついた。あたしが1番先生と一緒にいたんだから。まだ1年2年しか過ごしてないてめーらになんか渡してたまるか。これも口が裂けても言えない。だってなんか子供みたいだし(まぁ実際子供なんだけど)



「ねーねーちょっと!見てよこれ!」

いきなり友達があたしの視界を奪い何かを顔に押し付けてきた。いやいや近すぎて見えないからね。あたしは興奮気味の友達を押し退けながら渡されたものを見た。みんなの笑顔がこっちを向いている。ああ、そうかさっき配られた卒業アルバムだ。その子がきゃーきゃー言いながら指差すものを見てみると、その子とこの前付き合い始めた彼がピースしている写真だった(+ギャラリーもいるけどね)ちなみにこの頃はまだ付き合っていない。が、あたしはこの頃から両思いだったんじゃないかと予想している。友達はこれやばいラブラブじゃね!とか言いながら1人でくねくねしている。恋する乙女は綺麗になるというがこれはどうしたものか。あたしは1人はしゃいでいる友達を軽くスルーすると、ぼーっとそのアルバムを眺めた。懐かしいなぁ、みんな若い。ぼんやりと見ていると、とある1枚の写真に思わず叫びそうになった。な、な、なんでこれが…!その写真はあたしと先生のツーショットだった。確かうちの学校でやった部活の試合の時のものだと思う。いやいやいやいや!なんでこんなの載せたんだ!あたしは言いたいだけ言うと、深呼吸して気持ちを落ち着かせた。そした改めてまじまじと見ると、今より髪が短いあたしが満面の笑みを浮かべていた(ちょっと照れる)先生は今と全く変わっていない。懐かしいなぁ。

「うっわ何これ!俺わかっ!まぁ今もかっこいいけど。」

「ぎゃあ!ちょっ先生なんでいつもいきなり現れるんですか!」

ぎゃあ、とか色気ねーな。と言う先生を初めて殴りたいと思った。先生はあたしの後ろからアルバムを覗き込んでいた。え、これ若いか?今と変わんなく見えるけど。まぁかっこいいのは認めるけど…って何言ってんのあたし。ってゆーか近い近い!前までこんなの気になんなかったのに!どくどくと脈打つ心臓の音が教室に響いてる気がした。ぽかんと開いていた口をぎゅっと紡ぐ。開いたら、喉まで来てる言葉がうっかり出てきちゃいそうだったから。自覚したのはいいけど、あたしはやっぱり弱虫なままで。今日も、俯いてばかりいた。






ラララ愛を歌おう

(大声で貴方に言ってしまえたら、どんなに楽だろうか)





080321


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