美鶴の事はただの仲間だと思っていた。

共に戦い、信頼出来る大切な仲間だと。

だから接する態度も普通の友人と同じだし、桐条の家の者だからといって遠慮する事もなかった。


そう、ただの友人、仲間…。


けれど、自分でも気付かないところで、その気持ちが変わるなどと思いもしなかった。




あの事件があるまでは…。



◆◆◆



時任亜夜―
俺の良き先輩で、部活の元マネージャー。
彼女がこの寮にやって来てから数日が経った。
先日、俺は美鶴に黙ってタルタロスへ一人で向かっていたところ、イレギュラーのシャドウに襲われていた先輩を保護したのだった。
先輩も影時間の適正がある事が判明したため、この寮に身を置いている。
ただ、卒業生なので「寮母」として扱われているが。
先輩がペルソナを有しているかはまだわからない。
あくまで適正があるという事だけ。
先輩にペルソナ能力があれば、仲間が増えて戦力強化へ繋がる。
今の自分達の状況から言えば喜ばしい事なのだが、正直、先輩をこんな戦いの日々に巻き込みたくなかった。
今までこんなところとは無縁の場所にいたのだから。


「美鶴、今いいか?」
ラウンジで読書をしている美鶴に声を掛け、向かいのソファに腰を下ろした。
「何だ?」
「時任先輩の事なのだが…」
「時任さんがどうかしたのか?」
美鶴は本にしおりを挟んでテーブルに置き、俺の方に顔を向ける。
「先輩にペルソナ能力があったら…、本当に戦ってもらうつもりか?」
「ああ。今の我々では戦力が少なすぎる。それは明彦だってわかっているだろう?ならば能力のある者に協力してもらう他あるまい」
「だが…!先輩は今まで影時間の存在すら知らなかったんだぞ。それをいきなりこんな…」
平然とそう言う美鶴にどこか苛立ちを覚えて、俺は思わず立ち上がった。
そんな俺を不思議そうな目で美鶴が見上げてくる。
「俺は…、先輩を危険な目に遭わせたくはない…」
吐き捨てるように自分の正直な気持ちを口から零すと、美鶴はどこか悲しそうな目をして俺から視線を外した。
「そんなに…時任さんが大切なのか…?」
「そういう事ではなくて、俺はただ…」
「わかった。強制はしないさ。彼女の判断に任せる。それでいいだろう?」
強引に俺の言葉を遮り、美鶴はそう言ってテーブルに置いた本を手に取りラウンジを後にした。
美鶴にしては珍しい態度。
思えば先輩がこの寮に来てからというもの、美鶴の様子がおかしいように感じる。
妙に不機嫌になったり、時には避けられたり。
一体何だっていうんだ…?
自問したところで答えが出るはずもなく、俺は溜め息を吐いて自室へと戻っていった。


(本誌一部抜粋)

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