三月ももう終わりに近付いた麗らかな日和の中、俺は美鶴と一緒に近くの公園を散歩していた。
四月になれば俺は大学へ、美鶴は留学の準備や家の事に追われて滅多に会えなくなってしまう。
すでに寮からも出てしまっているため、今こうしてゆっくり出来るこの時がとても大切な時間だ。
そんな風に俺が考えていたところ、

「明彦」

急に呼び止められて、振り返った視界に飛び込んだ美鶴の表情は、どこか切なく悲しげであった。

「どうかしたのか?」

心配になって顔を覗き込もうとすると、意を決したように俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。
そして…。




「私と、別れて欲しい」






その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった…。



◆◆◆



あれから一年が経って、気候も気持ちがいい五月―

あの日も今日みたいに気持ちのいい日だった。
あの時、美鶴は俺の返答も聞かず立ち去ってしまった。
一方的な別れに納得がいかず、俺は今でも美鶴の事を思っている。
そう、俺の中では二人の関係はまだ終わっていない。
だから大学に入ってからも、誰とも付き合う事もなかった。
回りの友人からは『お前はもてるのに』とか、付き合いの申し出を断れば『もったいない』とか、色々言われてはいるが…。

美鶴が別れたいと言った理由。
長い間側に居られない寂しさと、見えないところで心変わりしてしまったらという不安。
そう思ってしまうのは、恋人という関係に繋がれているから。
その繋がりを断ち切れば、そんな思いをしなくてすむ。
だから別れたいのだと…。
美鶴は俺の中で、一番大切で命を懸けてでも守りたい女性。
この一年間、何の音沙汰がなくても美鶴への思いは揺がないものだった。
そんな簡単に諦めきれるものじゃない。
出来る事ならば、もう一度美鶴に会ってこの事を伝えたい…。



(本誌一部抜粋)

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