明彦が部活を終えて寮に戻ってくると、ラウンジで何やら話し込んでいる、箕嵩、順平、風花の姿が目に入った。
相変わらず美鶴とゆかりの姿が無い事に、この先の特別課外活動部のチームワークはどうなっていくのだろうか?と、心配になり、思わず明彦の口から溜め息が零れた。
その時、明彦の帰宅に気が付いた風花が、彼の元に近付いてくる。

「真田先輩おかえりなさい。あの…、桐条先輩をご存知ないですか?」
「何だ、美鶴の奴まだ帰ってきていないのか?」
「はい。今日は帰りが遅くなるとは聞いていないので…」

言いながら、風花は時計をチラリと見た。
あと数分もすれば二十時を回る。
美鶴が何の連絡もなしに、こんな時間まで戻って来ないとうのは確かに心配ではあるものの、彼女は時折宗家の都合やらで深夜に帰ってくる事もある。
恐らく今日もそういった理由だろうと明彦は思い、

「美鶴の事だから大丈夫だろう。すぐに帰ってくるさ」

特段気にする事もなく、そう風花に答えて自室へと戻っていった。


今日は美鶴が不在という事もあり、タルタロスの探索は中止となった。
そういった日は、一人黙々と自室でトレーニングをするのが明彦の習慣であった。
無心になってスパーリングをしていると、部屋のドアをノックする音が耳に入り、明彦は一旦トレーニングを中断し、汗をタオルで拭きながら来訪者を出迎える。
そこには、少し遠慮がちに風花が立っていた。

「どうした?山岸」
「あの、桐条先輩がまだ戻らないんです。もうこんな時間なのに…。さっきから携帯に電話をしているんですけど、全然繋がらなくて…」

時計の針は二十三時半を指している。
おかしい。
こんな時間まで美鶴が何の連絡もなしに帰って来ない事は、今まで一度もない。
その上、連絡も取れないなんて。
明彦の心の中に、妙な胸騒ぎが広がり始める。
そういえばと、ふと明彦の脳裏に昔の記憶が甦った。
それは、明彦と美鶴が出会ったばかりの頃。
シャドウやタルタロス、影時間発生の真相を美鶴に聞かされた時、明彦は今のゆかりのように反発した事があった。
しばらくの間、タルタロスの探索を拒み、美鶴の事も避けていたある日の事、深夜になっても彼女は帰って来なくて、その時は…。

「まさか…!」

明彦が感じていた胸騒ぎが、途端に焦燥へと変わる。

「真田先輩?」

何かを考え込んでいると思ったら、突然声を上げた明彦を不思議そうに風花は見つめ首を傾げた。
すると明彦は部屋の中へ入り、何やらごそごそとしていると思いきや、戦闘用の装備を簡単に整えて風花の前へと戻ってくる。
その手には召喚器も握られていた。
「山岸。悪いが美鶴を探しに行くのに付き合ってくれ」
「あっ、はい…。構いませんが、どうしてそんな装備を…?召喚器まで…。…‥もしかして、桐条先輩の居るところって…!」

急に風花の顔が青ざめる。
戦闘の装備をして赴く場所といえば、一つしかない。

「ああ。十中八九タルタロスだ」
「まさか、一人でそんなところに…!?」

当然の疑問を風花が口にした。
シャドウの巣窟であるタルタロス。
そんな場所に一人で行くなんて無謀すぎる行為だ。
ましてや、単独行動は美鶴自身が禁じていたはずなのに、その当人が規則を破っているかもしれないのだから。

「説明は後だ。急がないと影時間になる」
「はっ、はい!」

急かすような明彦の声に、風花は慌てて召喚器を取りに自室へと戻っていく。
それから間もなくして、二人は学園へと大急ぎで向かった。



(本誌一部抜粋)

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