その日、明彦と美鶴は近場ではあるが、評判の良いリゾートホテルへ来ていた。
今日は9月22日。
明彦の誕生日である。
ちょうど連休の合間であった事から、寮のメンバーからお祝いにと、『リゾートホテルで過ごす、桐条先輩との幸せな時間』と称して、宿泊券をプレゼントされたのだった。
当然、二人はいつ何時何があるかわからないからと断ったのだが、後輩達に加え、真次郎までもが背中を押すものだから、せっかくの好意を無にする事も出来なく、シャドウの動向が気になりつつもありがたく受け取ったのだった。
そして今、二人はホテルの一室で豪華な食事とケーキに囲まれて、明彦の誕生日を祝っていた。

「それにしても、どうしてあいつ等は明彦と私が…その…、つっ、付き合っている事を知っていたんだろうな?」

明彦以外誰も居ないのに、美鶴はどこか照れながら疑問を口にした。
付き合い始めてから一年近く経つというのに、未だ恥じらいの姿を見せる美鶴を明彦はおもしろそうに見つめる。
冷静で大人びた態度を普段しているがため、そのギャップの差が余計にそう思わせるのだ。

「プレゼントをもらってからシンジに聞いたら、全員とっくに知っていたそうだ。時々二人で夜外出していたのも、何をしていたのかも気付いていたらしい」
「そっ、そうか…」

明彦の言葉を聞いて、美鶴は顔を赤く染め上げた。
明彦とは世間一般でいう高校生のデートから、大人な付き合いの関係まで持っているため、それが全部筒抜けとなると恥かしくて仕方がない。

「でも、みんなに知られて俺はすっきりしたかな」
「えっ?」

自分とは逆の反応を示した明彦に、美鶴は目をパチパチと瞬かせた。
「もう隠れて美鶴とデートしなくて済むし、みんなの前でもスキンシップが取れるだろ?」
「明彦!」

調子に乗るなとたしなめるように美鶴が明彦の名を呼ぶと、冗談だと言うように彼は軽く笑う。

「それより、みんなからのせっかくのプレゼントだ。満喫させてもらうか」

これ以上下手な事を言って美鶴を怒らせては、二人きりで過ごせる誕生日が台無しになってしまうと思い、明彦は気を取り直して話を変えた。



(本誌一部抜粋)

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