長編小説1

□約束のひだまり〜困惑〜
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「…………ア、………ィア、……ティア、…ティアっ!」

「っ!?な、なあに?アニス…」


ぼんやりと考え事をしていたら、作業の手が止まってしまっていたのでアニスが大きな声でティアに呼び掛けた。


「もーぅ。さっきからボーッとしっ放し!これで三回目だよ!」

「えっ!?そ、そう?」


返すティアの声は裏返っており、戸惑っているのが明らかにわかる。


「どうしたの?またルークと何かあったの?」

「え…、そ、それは…」

「逢ったんでしょ?この間。ナタリアんとこ行ったらルークが逢いに行ったって聞いたから」


どうしてそのことを、と言う顔をしているティアに対し、アニスは黙々と手元の書類を片付けながら応えた。


「……う…ん…。逢うのは逢ったけど…」

「けど?」


相変わらず黙々と書類作業をしつつアニスは聞く。

こう言ってはアニスが可哀想だが、イオンの監視をしていただけあって観察力は鋭い。

ここのところティアがアニスに相談をするという形が増えているような気がする。

昔は逆だったのに、何時の間に逆転したのだろうか。


「けど…、私がルークを突き放しちゃって…」


あまり口にしたくないのか、細々と続きを口にした。


「え…、えぇ〜っ!?何で!?どうして!あれだけルークを待ってたのに!」


ビックリ仰天したアニスは、手に持っていたペンを放り投げて椅子ごと倒けそうになった。


「う、ん…。何て言うんだろう?私の待っていたルークじゃない…からかな…?」


未だ気持ちに整理のつかないティアは、一つ一つ言葉を選びながら言った。


「…それって、アッシュの記憶もあるからってこと?」

「そういうことに…なるのかしらね」


アニスの問いに、苦笑いをしてティアは答えた。


「でもティア、ルークは…」

「わかってる。本当はわかっているの。あの優しさは“ルーク”だわ。でも、ルーク自信も迷っているの。苦しんでいるの」


ティアはまるで自分の迷いや苦しみを断ち切るかのように、一つ一つに力を込めて話し始めた。


「どういう…こと?」


アニスも戸惑い、ティアの一言一言に耳を傾け、何時の間にか作業の手は止まっていた。


「アニスには暗がりで見えなかったかしらね。あの日、還ってきたルークの表情は冷たく、迷い苦しんでいるものだった。あの表情を見てしまった私は、もしかしたら、と思って辿り着いたのがこの前アニス、あなたに話したあの仮定」


アニスは何も言わずに、また、頷きもせずにただティアが話すことを聞いた。


「そしてこの前、ルークはわざわざ私を探してタタル渓谷まで来てくれたわ。私があそこにいることをわかるなんて、“ルーク”に違いないと思ったわ…」

「ならっ…」


アニスは椅子から立ち上がり、何故かと問おうとしたが、ティアがそれを制した。


「何故、と思う気持ちはわかるわ。でも、ルークの話を聞いていくうちに、どうしたらいいかわからなくなったの。このまま自分の気持ちを優先させてしまってもいいのか、それとも“ルーク”をルークとして諦め、本来の道へ送るべきか…」


知らず知らずのうちに、ティアの瞳には涙が溢れていた。

思い出したことが辛いのか、それとも…。


「…それで、ティアは送る選択をしたんだね?」


アニスは静かに聞いた。

もう一度、ティアの意志を確認するかのように。


「……えぇ。ルークを迷わせちゃいけないもの。もともとルークは…」

「もういいよ。それ以上言わなくてもわかるから」


アニスは優しく微笑んだ。

ティアが強がっていることはわかっていたから。

それでもルークはあの日話したようにまだティアへの素直な気持ちを持っていると信じている。

いつか必ずもう一度ティアへ思いを伝えにくるだろう。



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