長編小説1
□約束のひだまり 番外編〜幸福〜
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「ふぁ〜っ!疲れた〜」
自身の部屋に入るなり足を投げ出してルークはベッドに腰掛けた。
「お疲れさま。いろんな人から質問攻めで大変だったでしょう?」
あとから入ってきたティアは、部屋の扉を閉めると、ルークの隣へ腰をおろす。
「んー。まぁ、大体は予想できてたことだし、ナタリアやみんなも協力してくれたから、大丈夫だよ」
と、ティアに微笑みかけるが、その顔に疲労の色は滲んでいる。
そんなルークをティアは心配そうに見つめる。
それに気が付いたルークは、床に視線を落としてから、横目でちらりとティアを見て言った。
「それより、お前の方が大丈夫か?叔父上や父上達は快く承諾してくれたけど、ナタリアの奴、半ば強引に議会に通したらしいからさ、一部反対派の奴らもまだいるから、風当たりがキツいと思うけど…」
そんなルークの心配に、ティアはきょとんとした。
「そんなこと心配してるの?初めからわかりきってることじゃない。陛下や公爵様が反対しなかっただけまだ奇跡よ。身分だけじゃないわ。国だって違うもの。つい最近まで敵対していた国の民が公爵家に嫁ぐなんて、頭の固い議会の人達がそう簡単に認めるわけないじゃない。そんなこと気にしてたらあなたのプロポーズを受けるわけないでしょう?」
ティアの言葉に、改めて自分は思いを伝えたんだということに気付き、ルークは顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。
「……ルーク。あなた、そういうところは変わらないのね。…でも、元気そうで安心したわ。あなたも無理してるんじゃないかって思ってたから」
優しく微笑むティアは、月の光を浴びてより美しく見える。
そんなとき、ふと、あの最終決戦前の夜をルークは思い出した。
そんなルークに呼応するかのように、ティアはルークの胸にぽすんと頭を置いて、ぽそりと言った。
「ねえ、ルーク。今、幸せ…?」
「え…?」
「あのとき…、二年前の決戦前の夜、あなた、こう言ったわよね?『今が一番幸せじゃないって、思えればいいのに』って。今はあのときより幸せ?」
逃がしたくないというように、ティアはルークの服をぎゅっ、と握った。
「………、そうだな。今、こうして生きて帰れて、ティアと一緒にいられて…。これ以上ないくらい幸せだよ。それに、あのときとは違う。これからもっと幸せになるんだって思える」
「そう……。よかった…」
か細い声でそう言ってティアは静かに目を閉じた。
「ティア…?」
しばらくシンとした空気の中ルークはじっとしていたが、次第にすー、すー、と規則正しい寝息が聞こえてきた。
ティアが眠ってしまったのだ。
「…俺よりティアの方が疲れてんじゃん」
今動くと起こしてしまいかねないので、しばらくそのままでいることにした。
―数分後。
もう大丈夫だろうと思い、そっと自分のベッドにティアを寝かせた。
自分は床で寝るように、クッションと掛け物を用意する。
「…今日はありがとな。おやすみ」
そう言って、眠っているティアのおでこにそっと口付けをしてから、自分も寝ようと寝転がった。
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