長編小説1
□約束のひだまり 番外編〜深愛〜
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空には月が輝き、満天の星が瞬いている。
タタル渓谷――
全ての始まりの地である此処で、ルークとティアは共に岩に腰掛け、ティアは譜歌を唄い、ルークはそれに耳を傾けていた。
周りにはセレニアの花が咲き誇り、白い輝きを放っている。
七番目の譜歌を唄い終わり、余韻が辺りに響く。
余韻も消えた後は、滝と川の流れる水音と、セレニアの葉擦れの音しかしない。
何度も聞いた自然の生み出す音。
その心地よい音色は嫌味無く耳に入り、心を和ませる。
ほう、と息を吐き、ティアが不意にぽつりと呟いた。
「…私ね、本当は兄さんを殺して、自分も死ぬつもりだったの」
「え……?」
低く呟いたその悲しげな声に、ルークはただ、驚いた。
兄の計画阻止のため、討たんと乗り込んできた3年前。
もしかしたらあの日で全ては終わっていたのかもしれない。ヴァンの死と供に、ティアの死をもってして。
「じゃあ……」
驚いた切なげな顔をしたルークに、ティアは柔らかく微笑んで続きを口にした。
「でも、いつの間にか兄さん以外にも一緒に居たいって思える人が出来たから、私は死ななかった。…ルーク、貴方に待ってるって約束したから」
「ティア……」
「ありがとう、ルーク。帰ってきてくれて」
ティアの優しい笑顔に、ルークは少し罪悪感を感じた。
あのとき、自分も帰りたいと願い、必ず帰ると約束した。
だが、心の何処かではわかっていた。
このまま消えて帰れないことを………。
なのに約束した自分は、ティアに嘘をついていたことになる。
それでも信じ続けて、待ち続けてくれた彼女が、心から愛しく思う。
気が付いたら、ルークはティアを抱き締めていた。
「ルーク?」
「ごめん…。ありがとう」
「どうして謝るのよ」
ティアもルークをぎゅっと抱き締め、静かに返した。
「だって俺、あのとき、消えるのわかっててティアにあんな約束した…。ティアに、嘘つこうとした…」
泣きそうな、優しい声。
あのときはお互いああ言うしか出来なかったのに、嘘だなんて気に病むルークは本当に優しくなったんだなとティアは感じた。
「…ばかね。貴方はこうしてちゃんと帰って来たじゃない。嘘をついてなんかいないわ。それに、それをわかったうえで私も約束をとりつけたんだから、悪いのは貴方じゃないわ」
「でも…」
ティアから離れて俯くルーク。
帰ってからのひと月を思い返しているのか。
「もう、いいの。変わったこの世界で、変わった貴方と一緒にいられるだけで私は幸せだから」
月明かりに照らされたティアの笑顔は本当に綺麗で優しくて…。
自分をこんなに信じてくれたティアを、一度でも離そうとした自分を責めたアニスの気持ちが今なら申し訳ないぐらいわかる。
仲間はみんな、自分の…、自分とティアの幸せを願ってくれている。
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