長編小説1

□還るべきひだまり(ジェイド編)
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『どれだけ変わろうと悔いようと、あなたのしてきた事の全てが許されはしない。だからこそ、生きて帰ってください。いえ、そう望みます』



ジェイドは、執務室の机に肘を突いてルークに最後に言った言葉を思い返していた。


「生きて帰ってください、ですか…」


我ながら馬鹿なことを言った、とジェイドは呟いた。

ヴァンとの戦闘で、あれだけの第七音素を使ったのだ。その上ローレライの解放まで行った。消滅したと考えても可笑しくはない。それに……。


「記憶“は”残るですねぇ…」


今度は天井を仰いで、溜め息混じりに呟いた。

仲間には伝えなかったもう一つの真実―大爆発。

完全同位体同士なら起こりうる避けては通れない道。

レプリカは、記憶しか残らない…。

こんなときに、自分の理論が間違っていれば、と願ってしまう。


「初めは好意なんて持てなかったんですがねぇ」


今までのルークとの旅を思い返し、ジェイドは乾いた笑い声をあげていた。

どうしてこんなにも、無事を祈ってしまうのか、自分でもわからない。

人が死ぬことなんて、大したことではないと思っていたのに…。

そんな物思いに耽っていたらひょっこりピオニー陛下が執務室に顔を出してきた。


「よぅ、ジェイド。暗い顔なんてらしくないな」

「陛下ですか。また城を抜け出して…。私だって色々考えたいことがあるんです」

「ふーん」


と言って、ピオニーは連れてきたブウサギの毛繕いを始める。が、不意に真剣な声になってジェイドに問いただす。


「ルークのことか?」


図星を突かれたジェイドは、顔をしかめた。


「どうやら正解のようだな。あれから一ヵ月も経つ。最悪の状況を想定しちまうのも仕方のないことさ。ま、俺はルークもジェイドと同じようにしぶといと思うから、生きて帰ってくるって信じてるけどな」


と言って、ピオニーはブウサギの頭を撫でた。


「陛下はお気楽でいいですねぇ。確かに、最悪の状況を想定してしまいかねませんが、私だって生きて帰ってくるって信じてますよ。ただ、それがルークかどうか…」


そこまで言って、ジェイドは言葉を止めた。


「は?どういうことだよ。ルークはルークだろ」


意味のわからなかったピオニーはジェイドにそう答えた。

ジェイドはしばらくピオニーの顔をじっと見てから、溜め息を一つ吐いて言った。


「陛下にご説明してもわからないと思いますのでやめておきます。それより、そろそろ城に戻ったほうがよろしいんじゃないですか?またどやされますよ」

「何だよ冷たいねぇ。こっちのジェイドは」


と、ピオニーは苦笑しながら帰ろうと執務室の扉を開けた。

部屋を出て、扉を閉める前に、ふと立ち止まって、ピオニーは一言言った。


「お前の思ったままを信じればいいんじゃないか。この世に絶対なんてないんだ。理論なんていくらでも崩せる」


意外な言葉にジェイドは目を丸くした。そして、ふっ、と笑うと、言った。


「そうですね。陛下にしては偉く真面目なご意見で」

「失礼な。俺だって真面目な意見ぐらい言うさ」


二人は笑うと、その場の空気は和んだ。


「ありがとうございます。陛下のおかげで私自身の答えも出せそうですよ」

「そうか。それはよかった。こっちのジェイドも可愛いとこあるじゃねぇか」

「ブウサギと一緒にされるのはごめんですねぇ」

「ははは。ま、ルークに会いたくなればいつでも連れてきてやるよ」


と、ピオニーは連れてきたブウサギを見せた。そう、連れてきたブウサギは“ルーク”と名付けれられたやつだった。


「遠慮しておきますよ」


笑ってジェイドはピオニーを見送った。

執務机に戻って椅子に腰掛けると、ふぅ、と溜め息をついてさっきのピオニーの言葉を呟いてみた。


「思ったままを信じればいい、理論なんていくらでも崩せる、ですか」


陛下らしい意見だ、とジェイドは微笑んだ。


「そうですね。ルークはことごとく覆してくれましたしね」


そういって椅子から立ち上がると、執務室から出、外に出た。

グランコクマの空は今日も青い。その日の光を浴びて街のまわりに流れる水はキラキラと輝いている。

その中をジェイドは気晴らしに歩いていった。

その口元には、微笑みが浮かんでいた。



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