長編小説1
□還るべきひだまり(ガイ編)
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『さくっと戻ってこいよ。このまま消えるなんて許さないからな』
ピオニー陛下に言われたブウサギの散歩をしながら、ガイはぼんやりと空を眺めた。
青い。
あいつもどこかでこの青い空を見ているのだろうか。
それとも…。
いやいや、最悪の状況だけは考えるのをよそう。
ガイは頭をぶんぶん振った。
すると、そんな様子を散歩していたブウサギの一匹が心配そうに見上げてきた。
「あぁ。すまないね。ちょっと、心の友のことを思い出していてね」
と言って、ガイは笑ってブウサギの頭を撫でた。
「悪いな、ジェイド。心配かけちまって」
どうやらガイを心配そうに見上げていたのはジェイドと名付けられたブウサギらしい。
「ほら、お前もサフィールんとこ行って遊んできな、ジェイド」
そう言って、ブウサギのジェイドを、他のブウサギの元へ行かせたときだった。
背後から、聞き慣れた声と、感じ慣れた殺気を感じたのは…。
「誰がサフィールの所へ行けですって?」
そう。ジェイドが顔に満面の笑みを浮かべて立っていたのだ。
「う、うわわわわわ!ジ、ジェイド!?ち、違うんだ!それは陛下のブウサギのことで…」
慌ててガイは否定する。
すると、ジェイドは息を一つ吐くと、言った。
「それくらいわかってますよ。ちょっと、からかってみただけです♪」
悪戯にジェイドは笑った。
「相変わらずだなぁ。旦那は」
頭を掻きながらガイはジェイドに向き直る。
「そうですか?そうかもしれませんね」
と、空を見上げたジェイドの表情は、少しばかり悲しそうな影が射していた。
その様子に気が付いたガイは、あまりにも珍しかったのでつい聞いてしまった。
「あんたでも、悩んだりすることあるんだな」
ガイの言葉に、ジェイドは微笑んで答えた。
「おや。心外ですねー。私だって悩みの一つや二つ、ありますよ。今の悩みは、きっと、あなたと同じことだと思いますよ」
「ルークのことってわけか」
「えぇ。そうです」
二人は同じ空を見上げた。
ルークも、同じ空を見ているのだろうか…。
「あんたは、ルークが帰ってくるって、もちろん信じてるよな」
突然のガイからの質問に、ジェイドはガイを見た。
彼はまだ空を見上げている。
「そうですね…。そう信じている…と言うより、今はそう信じたい、と言うほうが近いかもしれませんね」
眼鏡の位置を直しながら、ジェイドはガイに背を向けた。
「しかし、何があろうとルークなら私の理論を覆してくれると信じて待ちますけどね」
ガイが視線をジェイドに持っていくと、ジェイドは微笑んでいた。いつもの意地の悪い笑顔ではなく、普通の笑顔で。
「俺は、正直信じて待ってていいのか不安なんだ。あいつのことを思い出すたびに、消えちまったんじゃないかって思っちまう…」
「そうですね。そう思うのが自然です」
そう言って、ガイもジェイドも視線を落とした。
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