長編小説1

□還るべきひだまり(アニス編)
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『私、イオン様の代わりに教団を立て直したいんだ。そのためにわぁ、パトロンが必要でしょ。ちゃんと帰ってきてね』



あの時は強がってあんなことしか言えなかった。お金のためにルークに帰ってきてほしいわけじゃない。(お金も必要だけど…)

あの時は、ああでも言わないと泣いちゃいそうだったから…。ルークがイオン様みたいに消えちゃうなんて、信じたくなかったから…。


「アニス?どうしたの?」

「フ、フフローリアン!?び、びっくりしたー。何?どうしたの?」

「えっとね、トリトハイム様からお仕事預かってきたから。これ」

「あ、ありがとう」


ルークと別れたときを思い出して、少し涙ぐんでしまった…。フローリアンに見られてしまっただろうか…?


「ねぇアニス、どうして泣いてたの?」


ががーん!やっぱり見られてた…。


「あー、うん。ちょっと、色々思い出して悲しくなっちゃってね…」


イオン様のこととか、ルークのこととか…ね…。

そんなことを考えていると、また泣きそうになってきた。


「アニス、泣きたかったら泣いていいんだよ?我慢はよくないよ」


そう言ったフローリアンの笑顔は、イオンそのものだった。

当たり前か。彼はイオンレプリカなのだから。

ふと、そんなことを思うと、急にフローリアンまで消えてしまうのではないかという思いに駆られてしまった。

アニスはフローリアンの服を握り締めると、そこに顔を埋めた。


「アニス?泣いてるの?」


イオンの声で、優しく言われると、余計に涙は溢れだしてきた。

気が付くと、アニスは声に出して泣いていた。

そんなアニスをフローリアンは優しく包み込んだ。

それから暫く、アニスは気の済むまで泣いた。

こんなに泣いたのは、イオン様を殺しちゃったとき以来だ…。


「気が済んだ?」


イオンと同じ笑顔だが、無邪気さの混じった笑顔でフローリアンはアニスに聞いた。


「うん…。ありがとう、フローリアン。心配かけてごめんね」

「何が悲しかったのか聞いてもいい?アニス一人で悲しい思いしてほしくないから…」


フローリアンの申し入れに、一瞬アニスはきょとんとしたが、そんなフローリアンの優しさに顔を綻ばせると、言った。


「ありがと。でも、もう大丈夫だから。フローリアンは心配しないで?ね?それに、私より、泣きたいはずの人がいるから…さ」

「アニスがそう言うなら…」

「それにぃ、私にはフローリアンがいるからね」


アニスは満面の笑顔でフローリアンに向かって言った。

フローリアンは嬉しそうに顔を綻ばせると、しっかりと頷いた。


「うん!」

「ささっ、お仕事お仕事!」

「頑張れー、アニスー!」



そうだよね、イオン様…。泣きたいのは私だけじゃない。みんなそう。それに、一番泣きたいのは…。

だからルーク、必ず還ってこいよ!みんなのために…ティアの…ために…。

みんなみんな、あんたを信じて待ってるからさ…。



「アニス、今度は何か良いことでもあったの?」


気が付けば笑っていたアニスをフローリアンは不思議に思って覗き込んだ。


「ん?べっつにー☆ただ、私って前向きだなーって思ってさ」

「さっきまで泣いてたのに?」


悪戯っぽく笑ってフローリアンはアニスに聞いた。


「さっきはさっき。今は前向きだもん!」


頬をぷぅっと膨らませてアニスは拗ねたふりをした。

その辺は、旅をしていた頃と何も変わらない。

ルークが還ってくるまでに、少しは大人っぽくなっていよう。

アニスはそっと、心の中で思った。

イオンの導いたルークは、必ず生きていると信じて…。



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