長編小説1
□還るべきひだまり(ナタリア編)
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『生きるのです!消えるなんて許しませんわ。絶対…』
キムラスカ・ランバルディア王国首都―バチカル。
この最上層にあるファブレ公爵邸の中庭に、二つの墓石が並べられている。
墓石に掘られている名前は、どちらも同じものだが、生まれた年月が違う。
一つはND2000。つまり、ルーク・オリジナル―アッシュ―の生まれた年。
もう一つはND2011。つまり、ルーク・レプリカの生まれた年だ。
そう。この中庭に安置されている墓石は、二人の“ルーク”のものだった。
二つの墓石には、沢山の花が手向けられている。
それでも、色褪せる事が無いのは、毎日事細かに手入れされているからだろう。
今日も、この墓石に花を手向け、手を合わせて祈る人影があった。
「ナタリア様…。今日も、あの子達に祈ってあげて、ありがとうございます」
「奥様…。いいえ、二人のために私に出来るのは、祈ることぐらいですわ」
毎日ナタリアは、公爵家に二人のルークの墓参りに来ていた。と言っても、レプリカ・ルークの方は死んでしまったなどとはまったくもって思ってなどいないが。
ただ、謝りたいだけなのかもしれない。アッシュにも、ルークにも迷惑を掛けたことを。
還ってくると信じて、墓石に祈り、そして謝る日々…。
あれから半年、ずっとそんな毎日を過ごしていた。
「奥様…。奥様は、誘拐されて帰ってきたルークがレプリカだと知ったとき、どう思われたのですか…?私は、知った初めの頃は、本物のルーク…アッシュが傍にいたからか、ただの作り物、偽物としか思えませんでした。それからレプリカのルークは変わろうと一生懸命で…。ただ、彼なりに罪を償おうとしているのをキムラスカの為だと勝手に思い込んで…。アッシュも同じですわ。なのに私は幼き頃の“約束”で二人を縛り付けていたのですわ…。それが結果として、二人とも死なせることになった…。私はずっと、二人にキムラスカの為に死んでくださいと言っていたようなものですわ!」
いくら謝ったって謝り足りない。
そう、ナタリアは思い、二つの並べられた墓石を見つめた。
そんなナタリアの肩に、そっと手を置くと、アッシュと、そして、ルークの母親であるシュザンヌは、静かに言った。
「ナタリア様、あまりそう思い詰められてはあの子達も心配しますわ。あなた様の言う通り、二人とも常に国の為、世界の為を想って動いてくれたのですもの。それに、私は誘拐されて帰ってきたあの子がレプリカだと知っても、あの子はあの子。私の大切な息子だと思いました。兄上から後に聞いたのですが、あの子は、ナタリア様が本当の娘ではないと知ったとき、兄上にこう言ったそうじゃありませんか。“ナタリアと過ごした17年の記憶は、本物ではないか”と。私も同じ考えですわ。例えあの子が偽物でも作り物でも、あの子と過ごした7年間は本物です。私の息子は二人いますわ。あの人も、そう仰ってくれましたし。二人とも、立派な私の息子です。だから、ナタリア様に死んでくださいと言われたなどと、決して思っていませんわ」
確かにそうかもしれない。ルークもアッシュも、決して自分を責めようとはしなかった。
でも、それは…。
「ナタリア様が元気でいてさえくだされば、他には何も望まない子達でしたわ。だから、ナタリア様、元気をお出しください。あの子が帰ってくると、信じてくださっているのでしょう?」
シュザンヌの言葉にはっ、とナタリアは顔を上げた。
そうだ。ルークは還ると自分達に約束してくれた。それが無茶だとわかっていても…。
ナタリアはシュザンヌを見た。
微笑んではいるが、とても寂しそうな笑顔。
そうだ。自分よりも誰よりも悲しい思いをしているのは奥様だ。
預言によって、早くに死ぬと分かっていた最愛の息子が、預言によって定められたときより生き抜いてくれた。
なのに、安心したのも束の間。やはり逃れられなかった運命。
辛いとかもはやそんなレベルではない。
なのに自分ときたら…。
また、お父様に拒絶されたころのようになっていた。
(これじゃあ、またルークにもアッシュにも心配されてしまいますわね…。)
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