長編小説1

□還るべきひだまり(帰還編)
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ND2020 ローレライデーカン レム 48の日





キムラスカ王国 首都―バチカル





最上層 ファブレ公爵邸










今日、ここにある二つの墓の前で、この、オールドラントを救った英雄二人の成人の儀が行われる。

普段、人があまり集まらないこの場に、今日は大勢の人が集まっていた。

二人の英雄の成人の儀を祝うためにキムラスカの一般市民からマルクト人、果てはダアトやユリアシティから、ルークとアッシュ、二人に縁のある人はみんな集まっていた。

あの旅で共だったノエルも、もちろん仲間達も集まっていた。

…ただ一人を除いて。


「ナタリア、どうしたの?」


さっきから誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見回しているナタリアに、アニスは何事か訊ねた。


「もうすぐ儀式が始まるのにティアの姿を見かけませんけど…。もしかして来てません?」


その問いに、アニスもあーそういえば、と、辺りを見回した。


「来てないっぽいね」

「ティアなら来ないんじゃありませんか?」

「大佐!」


突然後ろからジェイドが現われたので、驚いて振り返ったアニス。

後ろに立っていたジェイドは、いつもの読めない笑顔…ではなく、どこか切なさを秘めた表情だった。

まるで、遂にこの日まで、ルークが還ってこなかったことを悔やむように…。


「でも大佐、どうしてそう思うんですか?」


ジェイドの言う意味がわからないアニスは、顔を傾けて訊ねる。

そんなアニスの顔の位置まで腰を曲げるとジェイドは、いつもの意地の悪い笑顔になって、答えた。


「ティアですからv」


いつもの意地の悪い笑顔で意地の悪い答えを言ったので、アニスは呆れ顔でジェイドの顔を見た。


「なぁーんだ。いつもの大佐じゃん。ちょっぴり元気ないっぽかったから心配してたのに、損した」

「そうですか?」


いつもの読めない笑顔でからかってから、空を仰ぐ。


「ティアにとっては、ここにはルークがいませんからね」

「?どーゆーことですか?」

「言葉通りのことです。最も、アニスには難しいことでしょうが」


ジェイドの言葉にアニスは更に頬を膨らます。


「ですが、だとしたらティアはどこに…?先程、テオドーロさんに伺いましたら、朝早くに出て行ったと仰ってましたが…」

「タタル渓谷だろ」


少し遅れてガイが現われた。


「タタル渓谷って…」

「ルークとティアが一番初めに超振動で飛ばされた場所だよ。全ての……始まりの場所だ」


ガイの言葉をアニスとナタリアは、呆然と聞き入る。

はっ、と我に返ったアニスは、ジェイドを見上げて問い返す。


「そうなんですか?大佐」


アニスを見下ろしたジェイドの表情は、先程までのからかっている読めない表情ではなかった。


「…でしょうね」


眼鏡のブリッジを抑えながら、俯き加減で溜め息混じりで応える。

光が反射して眼鏡が光り、ジェイドの表情を確認することが出来なくなった。



あの旅を共にした四人が揃った。

言うまでもない。今、ここにいる四人も、此処にルークはいないと考えている。

墓の前で儀式を行う意味はないと思っている。


「……私達も、参りましょう。ルークがいる場所へ」


アニスが大きく頷く。


「……うん。タタル渓谷へ…。全ての始まりの場所へ」

「あぁ、そうだな。俺たちの待ってるルークは、此処にはいない」


ガイも賛同する。


「そうですね。私たちが此処にいるのは場違いです」


ジェイドも、仲間の言葉に心成しか満足そうに賛成する。



その後、成人の儀が始まるにも関わらず、四人はバチカルを駆け出してタタル渓谷へ向かった。

…全ての始まりの地であるタタル渓谷へ―…。


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