長編小説1
□約束のひだまり〜記憶〜
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「悪いな、ジェイド。呼び出して」
「いいえ。私も、あなたには聞きたいことがありますから」
ルークは、マルクトの首都、グランコクマにいた。
昨夜、ジェイドに言った、聞きたいことを聞くためである。
「とりあえず、長くなりそうですし、座りますか」
と、ジェイドは噴水の傍のベンチを指した。
「さて。話を聞く前に。貴方はアッシュなのですか?ルークなのですか?」
わかっているが念のため、と言うようにジェイドは訊ねた。
ルークはその問に暫らくの間を置いてから、悩むように答えた。
「ルーク…なんだと思う」
「ほう。と言うのは?」
いかにも興味津々、と言うように問い返すジェイド。
ルークはジェイドがわかってて聞いているな、ということを見抜いていたが、聞きたいことがそこにあるため、敢えて気付かない振りをして続けた。
「あいつの…アッシュの記憶もあるんだ…。お前に聞きたかったのはこのことなんだ。どうして、俺はアッシュの記憶を持ってるんだ!?どうして俺が残ったんだ…?」
半分泣き叫びそうになりながら、ルークはジェイドに掴み掛かるように訊ねた。
「それは……詳しくは私にもわかりません。通常、完全同位体同士には、一定期間が過ぎるとビックバンと言う現象が起こり、オリジナルとレプリカは一つとなり、レプリカは記憶しか残りません。貴方の場合は、どうやら逆が起こったようですね」
相変わらずすらすらと、難しいことを淡々と喋る。
何となく意味は掴めたが、まだ納得できないルークは顔をしかめた。
「納得できないようですね。私も、よくはわかりません。ただ、アッシュは“ビックバン”で死んだのではない。これだけは言えるでしょうね」
「ビックバンで死んだわけじゃないのなら、やっぱり、あの時の…」
「そうなるでしょうね。そして、アッシュのフォニムは何故かレプリカのあなたの方に還った、というところでしょうか」
「そうか…」
何となく理解できた真実に、ため息を吐いてベンチの背もたれにもたれたところで、ジェイドが何かを思い出したようにいきなり呟いた。
「そーいえば!つい先日、ティアとも同じここで話をしましたっけ。丁度あなたが座っているところにティアが座ってましたよ」
にーっこりと満面の笑顔を向けてルークに言うと、ルークの顔が冷静な沈んでいた顔から真っ赤な恥ずかしそうな顔に一変した。
丁度、トマトがいきなり熟して赤くなったと例えたらいいように。
「な…!なななっ」
「あー、そういえばナタリアからは手紙を貰いましたっけ」
「俺がいない間にナタリアから手紙なんて貰ってるんじゃねぇっ!」
今度はジェイドに掴み掛かって怒鳴った。
「ただのあなたの成人の儀の招待状の手紙ですよ。そんなに焦らなくても、ラブレターなんて頂いてませんよ」
まあまあ、とルークを宥めながら掴み掛かった手を除けた。
「ふむ。これは面白いですね。恋心も二面持ったままですか」
「面白くねぇっ!こっちはそれについて一番悩んでんだよ!そのせいで昨日はティアに冷たい態度とっちまったしさぁ…」
「おや。やはりルークはティアのことが好きだったのですね」
また更ににーっこりと笑ってルークを見ると、ルークは一度蒼白になってからまた一気に赤くなった。
「ち、ちちち違うっ!そうじゃなくてっ」
「焦らずとも大丈夫ですよ。全員知ってますから♪」
「…〜〜っ!」
全員、という言葉にルークは絶句した。
あの旅の最中に全員にティアを好きなことが知られていたのだ。
「もちろん、ミュウも気付いてましたよ」
相変わらず崩れない満面の笑みにルークは肩を落としてがっくりする以外何もできなかった。
まさかあの喋る小動物にすらバレていたとは。
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