長編小説1
□約束のひだまり〜混迷〜
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片付け始めてどれくらいたったのだろう。
朝早くに手伝いにきたというのに、もう日は傾いて西の空が赤く輝いていた。
山となっていた仕事も、残り十分の一と言ったぐらいだ。
「ありがとうティア。おかげで今日は寝れそうだよ」
「そう。今回は何日くらい徹夜してたの?」
「んー、三日…いや四日かも」
お互い、手元にある書類作業を行いながら話した。
「またそんなに?イオン様のためを思うのはわかるけど、無理してアニスが倒れたほうがイオン様は心配されるわ」
「そーいうティアこそ、最近ろくに寝てないんじゃないの?」
「えっ…?」
今まで黙々と書類に目を向けて作業をしながらアニスの問いに答えていたティアは、アニスの思わぬ問いに思わず顔を上げた。
正面に座り、同じように黙々と作業をしていたはずのアニスは、冗談じゃないよ、という風に真剣な眼差しでティアを見つめていた。
「ど、どういう…」
「目の下のクマ、それに目、腫れてる」
アニスと顔を合わせたのは訪ねてきたとき数分ほどだ。
それから顔を見合わせる事無く黙々と作業を行っていた。
たったその数分で片方は前髪で隠れていて見えないティアの目の観察をするとは、やはりアニスに気付かれずにいることは不可能なのか…。
「ティアっていつも人には無理するなーとか言ってるけど、自分が一番無理してるよ。…ルークと、あれから会ってないの…?」
あぁ…。昔、ルークにも言われたな。無理しすぎだと…。
それがアニスにまで言われるようになってしまったとは…。
みんな、私のことをよく見てくれているのね…。
「……ルークとは、還ってきた次の日にグランコクマで会ったわ…」
あの日の出来事は誰一人として話してはいなかった。
もちろん、あの後会ったジェイドにすら。
ジェイドのことだから会ったことに気付いていたかもしれないが、聞いてくることもなかったし、別段、話す必要もないと思ったので黙っていた。
それでも、ジェイドに聞きたいことがあったのも確かで…。
でも、それは聞いてはいけない気がしたので聞けなかった。
ジェイドも、話すべきではないと考えているのか、話しはしなかった。
それなのに今、口を吐いてあの日にルークに会ったことが出てくるということは、誰かにこの気持ちを、考えを聞いてほしかったのかもしれない。
それはアニスに限ったことではなく、今回、たまたまアニスがそれを話す切っ掛けを作ってくれただけにすぎない。
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