長編小説1

□約束のひだまり〜決意〜
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「イオン様…」


イオンの私室へと続く譜陣の前で、アニスは息を整えると同時に、心も落ち着けた。

イオンの私室へ行くのは何時ぶりだろう。

エルドラントから帰ってきてから、一度、イオンへ全てが終わったことを告げに行ったきりかもしれない。

今は、そこには、皆で無事の帰還を祈った“ルーク”がいる…。

大きく息を吸い込んで、アニスは譜陣へと足を踏み入れて、久しぶりとなるこの言葉を呟いた。


「『ユリアの御魂は導師と共に』…!」


光に包まれたかと思った瞬間、もうイオンの私室の前にいた。

足が震える。

もし…もしも、この扉の先にいるのが自分の信じて待ったルークではなかったら…?

考えてはダメだ。

ふるふると大きく首を振ってから、アニスはイオンの私室へと続く扉をノックしてからそっと開けた。

執務室となっている、机のある部屋には誰もいなかった。

ベッドのある休憩室への扉が少し開いていた。

ルークはそこにいるということか…。

アニスは、休憩室への扉を開けた。

そこには、窓の外を物憂げに見つめている見覚えのありすぎて忘れもしない赤毛の人物が立っていた。


「ルーク…?」


アニスがそっと声をかけると、赤毛はゆっくりとこちらを振り向いた。

還ってきたあの晩以来、見てはいないが、あのときの“ルーク”で間違いないようだ。


「…アニスか」


昔より幾分か冷たさを含んだ言い方に、少し胸が痛んだ。

視線も前よりも冷たく感じるのは気のせいではないはず。


「あ、あのさ、ル…」

「急に人の気配がするから、まさか、イオン?とか思っちまったよ」

「へは?」


突然、冷たく感じた表情とは一変し、昔のあの無邪気な表情になったことに、アニスは拍子抜けして間抜けな声が漏れた。


「あ、あ、あ、あのぅ…」

「還ってきたときも思ったけど、お前、ぜんっぜん変わってねぇな。お前、いくつになったんだっけ?」


今度は懐かしげ…と言ってもいいのか、ゲラゲラとお腹を抱えて笑いながら聞いてきた。

あまりの違いっぷりに、呆気にとられてアニス自身の聞きたかったことが聞き出せない。


「え…あ…、16…だけど…」

「16!?マジかよ!お前、ジェイド並に変わってねぇぞ」


まだルークはお腹を抱えてケタケタと笑っている。

…こいつ、本当にルークか?

アニスは違う意味で疑った。


「あのぅ、一つ質問いい?あんた、本当に“ルーク”なの?」


笑いすぎてヒーヒー言っているルークに、色んな意味で一番聞きたい質問をした。


「え?あ、あぁ。みんな同じこと聞いてくんな。ガイだけだよ、何も聞かなかったの」


笑いすぎて出てきた涙を拭いながら、ルークは答えた。


「え…、じゃ、じゃあ!」

「ああ。お前等の言う、レプリカの“ルーク”だよ。一応な」

「よ、良かったぁ…」


最も心配していた問題が、最も良い形で解決したことに、アニスは安心してその場にへたりこんだ。

しかし、何か引っ掛かる。



一応…?



「ルーク、一応って…?」


へたりこんだままでルークを見上げてアニスは訊ねた。


「ん?あぁ。アッシュの記憶や感情もあるんだよ。俺の中に」

「えっ…、それって…」

「大丈夫だよ。意志はレプリカの方だから」


一瞬過ったアニスの不安を察して先にルークが答えた。




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