長編小説1

□約束のひだまり〜決意〜
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「じゃ…、じゃあ!何でティアに逢わないの!?ティア、すっごく不安がってたよ!?昨日来てくれたらティアだっていたのに…。この一週間何してたのよっ!」


アニスの問い詰めに、また、あの冷たい表情になった。

この顔のルークは嫌だ。

だけど、この質問全てに答えるまでは帰さない。


「…。この一週間は、還って早々にジェイドんとこ行っちまったせいで、母上や父上に引き止められて屋敷にずっといた。だから、還ってきた次の日にグランコクマに行って以来、今日、ここに来るまでどこにも行ってねぇ。本当は、もっと早くイオンに顔見せに来たかったんだけどな」

「この一週間のことはわかった。じゃあ、何でティアには逢いに行かないの?昔のあんたなら、真っ先にティアに逢いに行くと思うんだけど」

「………」


ティアの質問となると黙りこくった。

それでもアニスも負けじと粘る。

この答えはきちんと聞かねば。

ティアは、ルークのこの、ティアを見ようとしない態度に悩み苦しんでいるのだから。


「…。あたしには、話せないことなの?」

「…別に。お前に話せないわけじゃねぇよ。ただ、ティアにはバレたくないだけだ」

「また…、ティアには隠し事するんだ。あんたのその余計な感情が、ティアを傷つけてるってわかんないの?あんたはどれだけティアを傷つければ気が済むの!?」


アニスは怒鳴った。

こいつのせいで…、こんな奴のせいで、ティアは苦しんでる。

今も、昔も、傷つけたくないから隠しているのはわかってる。

でも、その余計な感情がもっと傷つけていることをいい加減気付いて学んでほしい。

悔しい…。

イオンが真っ先に気付いていたこいつの優しさが、ティアを傷つけているだなんて…。


「…何なの?何があんたをティアから遠ざけてるの?ティアには黙ってるから、私には話して」


聞いておかなくてはすっきりしない。

仕方がないのでティアには黙っているという条件を提示して、ルークがティアを見れない真相を問い詰めた。


「…アッシュの記憶や感情もあるって、さっき言ったよな?」

「…うん」


条件もあるからか、ルークはゆっくりと話し始めた。


「アッシュの記憶や感情があるということは、レプリカの俺には無かったはずの10年間の記憶がある。つまり、その10年のアッシュの想いもわかっちまう」

「……うん」

「更に、お前もわかってると思うが、アッシュはナタリアが好きだ」

「………」

「アッシュの感情もあるってことは…―」

「アッシュの気持ちとしてはナタリアが好きってこと?」


ルークが全てを言い終わる前に、事を察したアニスが後を引き取った。


「…そうだ」


そのことにカッとなったアニスは、立ち上がってルークに掴み掛かった。


「アッシュの記憶や感情があろうが、意志はあんたの…レプリカの“ルーク”なんでしょう!?なら、何で記憶と感情だけのオリジナルに遠慮すんのよ!自分の気持ちに正直になんなさいよ!!あんたはまだあの頃の卑屈のまんまなの!?」


感情のままに叫んだ。

ティアを好きだったルークが、アニスは好きだから。

もうこれ以上大切な人を失いたくない。

このままルークがティアを見なければ、アニスの待った“ルーク”は消えたことになる。

…そんなのは絶対に嫌だ。

だから、なんとしてでもルークをティアの方に向けなくては。

その目も、その心も。


「…れだって、俺だって自分の気持ちに素直でありたいよ!!…でも、今あるこの命は半分はアッシュのおかげのようなものだ。それに…、簡単にアッシュの10年間やナタリアへの気持ちを捨てられるわけないだろ!!」


ルークも叫んだ。

普通に…オリジナルルーク‐アッシュ‐の代わりに作られたレプリカの“ルーク”として還って来られたのなら、素直に気持ちのままにティアのところへ行けた。

ずっと言いたかった沢山の『ありがとう』や『ごめん』、…それに、ずっと言えなかったこの気持ちを伝えに行くのに。

でも、だからと言ってアッシュのせいには出来ない。

アッシュは、記憶と感情だけを残して、もうこの世にはいないのだから。

本当は自分がそうなるはずだった。…記憶と感情だけに。

伝えたい想いも伝えられないまま、やりたいこともやり残したまま逝ってしまったアッシュの記憶や感情を蔑ろにして、自分だけの幸せを掴むなんて出来ない。

あれから一週間、屋敷にいた間はずっとそんなことを考えていた。

卑屈かもしれない。

そうは思ったが、簡単に片付く問題ではなかった。




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