長編小説1

□約束のひだまり 番外編〜空翔〜
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日が傾きだした頃、ノエルが集会所へ戻ると、中から賑やかな話し声が聞こえてきた。

誰か客人が来ているようだ。

ノエルが扉を開けて中へ入ると、兄のギンジと話をしているガイがいた。


「あ、ノエル。アルビオールの整備、お疲れ様」


相変わらずのナチュラルスマイルで戻ってきたノエルを労って迎えた。


「いらっしゃい、ガイさん。今日はお仕事お休みだったんですか?」


ガイの座っている丁度向かい側になる席に座りながらノエルは訊ねた。


「いや。今朝のブウサギの散歩を終わらせてから来たんだ。暫らくぶりだし、向こうでは音機関の話を聞いてくれる人がいないからね」


苦笑いを浮かべながらも、久しぶりにギンジと音機関の話が出来て嬉しいのか、子供のような目をしている。


「ガイさんは本当に音機関がお好きなんですね」


ノエルもニコニコとガイの話に応じ、兄がノエルの分と淹れてきてくれたミルクティーを受け取った。





それから話題も尽きる事なく話が盛り上がっていたとき、奥の作業場からアストンが顔を出してギンジを呼んだ。


「ギンジ、すまんが手伝ってくれんか?一人ではここは無理なんでな」

「わかりました。今行きます」


ギンジが席を立ち、作業場へ向かおうとしたら、ガイも立ち上がった。


「俺も手伝いましょうか?音機関についてならだいたいはわかりますから」


そんなガイの申し出に、ギンジは笑顔で制した。


「大丈夫っス。ガイさんは折角の休みを満喫してください。ノエルと音機関の話でもして、楽しんでください」


そう言ってギンジは作業場へと入っていった。

パタンという扉の音がしたかと思うと、部屋はシンとした空気に包まれた。

さっきまで盛り上がっていた話も、一度途切れてしまうと話が分からなくなる。

静まり返った部屋にはガイと二人だけだということに気付き、ノエルは妙に意識してしまった。

温かな湯気を出している兄が淹れてくれたミルクティーで冷えた手を暖めながら眺め、目を合わさないようにした。

ガイは特にそれを気に留める様子もなく、周囲の音機関を眺めていた。

ノエルがどうしようかと一口ミルクティーを口にしたとき、不意にガイが丁度真後ろにある音機関を興味深気に眺めながらノエルに訊ねた。


「ノエルは、好きな奴とかいないのかい?」

「え…?」


あまりにも唐突に、しかも考えてもいなかったことをガイに訊ねられ、戸惑いの一言しか出なかった。


「いや、この前、ルークとティアが結婚したろ?君も年頃だし、ああいうの見て憧れたりするんじゃないかと思って」


質問はするも、ガイは音機関ばかり眺めてノエルの方を見ない。

しかし、ノエルはそれでよかった。

まさかのガイからのこのような質問に、恥ずかしさから真っ赤だった。


「あの…、えと…。そ、その、ガイさん…はどうなんですか?」


ガイさんで止めればまた意味も違ってきたのに、ノエルは質問を質問で返すことになった。


「俺?俺はほら、女性恐怖症があるから、まだそんなことは考えたこともないかな」


そう笑いながらガイはノエルの方へ向き直った。

ノエルは相変わらずカップに視線を落としたままである。


「しかも、こんな音機関バカの話に付き合ってくれるような子はいないだろう?あのルークでさえ呆れるんだからなぁ」


苦笑いを浮かべてノエルを見た。

ノエルはそんなガイの言葉に少し、悲しそうな顔をした。


「音機関バカだなんて…!ガイさんは音機関の素晴らしさをわかっておられるんですから、そんな悲しいこと言わないでください…。きっと、わかってくれる子はいます!」


そう言ったあとにノエルは心の中で『私のように』と続けた。

先を続ければ自分の気持ちも先に進むのに、続けて紡ぐことの出来ない言葉に、ノエルはそんな自分をもどかしく感じた。

ノエルのフォローするような言葉に、ガイは優しく微笑んだ。


「ありがとう、ノエル。君だったら話が分かってくれるからいいんだけどね」


何気なく言ったのであろう一言に、ノエルは耳まで真っ赤にした。

同時に今だったら伝えられると思い、深呼吸をしてからノエルは言葉を紡いだ。


「あ…あの、私でよければ…、私なんかでよろしければお付き合いしてくれませんか…?」


そんなノエルの言葉にガイは目を丸くした。


「それはこっちの台詞だよノエル。こんな俺の話を聞いてくれるのは君たちだけだからね」


ちゃんとした意味が通じていないのか、ガイは笑いながらノエルに言った。


「違うんです!その…、私の好きな人はガイさんで…。これからも一緒に音機関の話をしたり、一緒にアルビオールで空を翔け巡れたらなって…」


一気に気持ちを溢れさせて伝えようと必死にノエルは言った。

ガイはノエルの言葉と気持ちに、ノエルを見て暫く目をしばたたいてから、視線を右に逸らした。

微かに頬が紅いのは気のせいではないはず。


「ありがとう、ノエル。その…、君にはもっと似合う素敵な人がいると思うんだ。どうして俺なんか?」

「ガイさん以上に素敵な人はいません!音機関の話をしているときのキラキラした眼差しとか…。私だって大好きなアルビオールの話が出来るのはガイさんだけですから」


ありのままの本心を伝えたら、気持ちが軽くなったような感じがノエルはした。


「そうか…。ありがとう。俺なんかでよければよろしく」

「はいっ!」


ずっと心の片隅にわだかまりのように残っていた気持ちを解放できて、また、和やかな空気で話が盛り上がり始めた。



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